人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
そう言われて、昼間のライラとの会話を思い出した。

もしかしたら先程エドワード殿下と謁見したあの場にもいたのかもしれない。

 ……報告ってなにかしら?

心当たりはないが、追い返すわけにもいかず、私は「お通しして」と答えた。

相手は大国の公爵で、王位継承権第2位の要人だ。

王族とはいえ、小国の王女にすぎない私が無下に扱うことのできる相手ではなかった。

再びベールを装着し寝室とは別にある応接間のソファーに移動して待っていたところ、ほどなくしてその相手が姿を現した。

スラリとした長身に、艶めくような黒髪、瞳は少し青みがかった真紅色をしている。

そして驚くべきはその顔立ちだ。

作り物めいた完璧に整った美しい美貌に思わず目を奪われた。

 ……ベールをしていて良かったわ。マヌケ面を晒してしまうところだった。

ここまで案内をしてきたライラの方をチラリと見れば、ライラも目に驚きを宿しているのが分かった。

貴族令嬢からの人気を一身に集めているというのもこの容姿と家柄なら頷ける。

ただ、整い過ぎているからなのか、どことなく冷たい印象を与える人だなとも思った。

その彼はソファーの近くまで来ると恭しく私に礼をして、その美しい顔に笑顔を浮かべる。

「王女殿下、お寛ぎのところ失礼いたします。私はエドワード殿下の側近で、ブライトウェル公爵家の当主、ロイド・ブライトウェルと申します。このたび、エドワード殿下からの命により、連絡係の任を受けました。エドワード殿下はお忙しい方ですので、なかなかお時間が割けないため、なにかありましたら私までお申し付けください。王女殿下に我が国で心地良く過ごして頂けるよう努めさせて頂きます」


美しい笑みのまま発せられたのは、思いもよらない言葉だった。

予想外すぎて言葉も出てこず、ただじっと彼の顔を探るように見つめてしまった。

 ……連絡係? この人がわざわざ? それってつまり監視役みたいなものじゃないの?

せっかく自由気ままだと喜んでいたのに、監視役なんて邪魔なだけだ。

なんとか自分の自由のためにこの事態を回避したい私は頭をフル回転し始めたのだった。
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