人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
そんな私の心を見透かしたように、ロイドは少し体を離すと、私の顔を覗き込んだ。

「アリシア様のことですから、衣食住に苦労しない生活だけで満足なのに、これ以上の幸運を享受していいのか戸惑っておられるのでしょう? リズベルト王国での生い立ちもあって、アリシア様は幸せ慣れされていないと思います。王女なのに、他の人より満足の基準値が極端に低いのです。それもアリシア様の美徳ではありますが、私はあなたをもっともっと幸せにして差し上げたい。アリシア様の願いならなんでも叶えていきたいと思っています」

作り物の笑顔を浮かべ、取り澄ました顔をしていた最初に出会った頃のロイドとはまるで違う。

こんなふうに情熱的に私を幸せにしたいと言われて、喜びが心の底から溢れ、心と体を満たした後に外に溢れ出る。

「ロイド……ありがとう。私もあなたを幸せにしてみせるわ」

自然とそんな言葉が口をついて出て、私は笑み崩れた。

気づけば再び抱き寄せられ、ギュッと先程より強く抱きしめられていた。

ロイドの腕の中に包まれ、触れたところからは体温が伝わってくる。

私の心臓は破裂しそうなほどドキドキしていた。

 ……こんなにうるさい音、ロイドに聞こえてしまいそうだわ。

そう思いながらも、なんだかもっとロイドに近づきたい気持ちが溢れてくる。

私は所在なさげに放置していた自分の手をそっとロイドの背中に回して、自分からも彼を抱きしめた。

ピクリと反応したロイドがさらに自身の腕に力を込め、その抱き合った状態のまま、ロイドが私の耳元でつぶやく。

「近日中に新国王のお披露目を兼ねた舞踏会を計画しています。その時はお互い素顔で一緒に踊りましょう。三回連続で」

「ええ、喜んで」


ここは牢屋の中だ。

全然ロマンティックな場所でもなんでもない。

殺風景で何もない、石畳のゴツゴツした床が寒々しい空間だ。

だけど私はこの時、人生で一番と言っても過言ではない幸せと感動で胸がいっぱいだった。

ロイドに身を預けながら、見たもの、聞いたもの、感じたもの、この瞬間のすべてを絶対に忘れないようまぶたの裏に焼き付けた。
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