人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
アリシア様のことを何も知らないくせに全く勝手なことだとわずかに苛立つが、こういった反応は予想していたため、私は手を打っていた。

「では、改めてこの場で紹介しようと思う。私が妻に迎え、そしてこの国の王妃になられるアリシア様だ」

私がそう言い放つと、ゆっくりとした足取りで舞台袖からアリシア様が壇上に現れた。

優雅で気品に溢れるアリシア様はそのまま私の隣に並び立つ。

貴族たちはアリシア様の姿を目にした瞬間、雷に打たれたような衝撃を受けている様子を見せ
、ピタリと動きを止めたまま息を飲んだ。

なぜならアリシア様がベールを付けておらず、素顔のままだったからだ。

醜い容姿だと信じて疑わなかった貴族たちは、アリシア様の美しい姿に、あんぐり口を開けて穴のあくほどじっと見つめている。

アリシア様が外見だけでなく、中身も素晴らしい方だということを私は重々承知しているのだが、分かりやすく貴族たちを黙らせるのには大々的にベールを取って見せるのが効果的だと考えたのだ。

この様子を見れば、その見立ては予想通りだったと言えるだろう。

そんな貴族たちの姿を視界に入れながら、私はさらに口を開く。

「私はアリシア様を心よりお慕いしているため、今後側妃を娶るつもりは一切ない。前国王陛下と同様、王妃であるアリシア様だけを一生愛し抜くことをここに誓おう。そのことを皆には承知しておいてもらいたい」

静まり返っていたその場に再びザワザワと騒めきが訪れる。

娘を側妃に充てがおうと企んでいた貴族や、側妃の座を狙おうと自ら考えていた令嬢などが動揺しているのが手に取るように分かった。

だが、これこそが私の狙いだったのだ。

正式な場で(おおやけ)にこのことを宣言しておきたかった。

私の本心であるし、同時にこうやって宣言しておくことでアリシア様の立場の向上にも繋がり、変にアリシア様に突っかかるような女も減るはずだ。

チラリと隣に立つアリシア様に視線を向ければ、気丈に振る舞っているが、耳が赤くなっていて照れているのが分かった。

 ……恥ずかしがったり、照れたりして、すぐに赤くなるアリシア様が可愛らしくて仕方ない。

今すぐ抱きしめたい衝動に駆られるも、そこはグッと耐え忍び、司会進行役のアランに促されて私たちは一旦壇上から引き揚げた。

ここからはいつもの舞踏会の形に戻り、ダンスのための音楽が奏で始められる。

食事やお酒も運び込まれてきて、自由に社交を楽しむ時間へと様変わりした。

上座に座った私とアリシア様のもとへは少しでも縁を結ぼうとひっきりなしに様々な貴族が挨拶に訪れる。

それに社交的な笑みを作りながら応対し、ようやく切れ目ができたところで、私は立ち上がりアリシア様の手を引いた。
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