人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「約束通り、私と踊って頂けますか?」

「もちろんよ」

ダンスホールに降り立った私たちには、以前の比ではないくらいの無数の視線が突き刺さる。

皆の注目を集める中、音楽に合わせて一曲目を踊り出した。

「すっごい視線ね。緊張してステップを間違えてしまいそうだわ」

「大丈夫です。間違えてもバレないように私が上手くリードしますよ」

「ふふっ、それは助かるわ。さすがロイドね」

私たちはお互いに作ったものではない自然な笑顔を浮かべながら見つめ合う。

前回とは違い、ベールをしていないアリシア様とのダンスは、こうして至近距離で顔を見ながら踊れるのが嬉しかった。

二曲目に入り、曲調はゆったりとしたものに切り替わる。

抱き合うように体の距離が近くなった。

「ベールをしていないせいか、ロイドとの距離がこの前より近い感じがするわ。ちょっと恥ずかしいわね」

相変わらず頬を染めて恥じらう様子に心をくすぐられる。

伏せた目を縁取る長いまつ毛が妙に色っぽい。

「それは今更では? いつももっと近い距離になることもあるでしょう?」

耳元で囁けば、途端にアリシア様は耳まで真っ赤になってしまった。

踊りながらその様子に小さく笑っていると、ついに三曲目が始まった。

「……念願叶って三曲目ですね。以前の舞踏会の時、二曲目の終盤は本当に手放し難かったのですよ?」

あの時のことを思い出しながら噛み締めるように述べると、アリシア様は「私だって」と言う。

お互い同じ気持ちだったのだと思うと、胸に迫り来るものがあった。

私たちは今この瞬間を一滴も逃さず味わうように、お互いを見つめ合って音楽に合わせて踊った。

その時ふとアリシア様の視線が私から外れた。

どこか一点を食い入るようにじっと見ている。

ステップを踏みながら、位置が入れ替わった時にその視線の先を追ってみると、それはアリシア様の父と妹へと向かっていた。

「……お父上と妹姫が気になるのですか?」

「ええ。2人がこの国に到着した時と、舞踏会の最中と2度挨拶を交わしたのだけど、その時のお父様の態度があまりにも違ったものだから」

それは私にも容易に想像ができた。

ユルラシア王国に到着した時は、自国で王族扱いせずに冷遇してきた娘に対する態度のままだったのだろう。

それが舞踏会の冒頭で私が宣言したことにより、娘がまもなく王妃となり、しかも国王に一生の愛を捧げられたと知り、蔑ろにしてはいけない相手だと理解したに違いない。

なにしろ同盟国とは言え、アリシア様は自分の国より大国の王妃となるのだから。
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