人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「お父様と違って妹のエレーナの態度は変わらなかったのだけど、なんだか今、もの凄い形相で私を睨んでいるみたい。普段人前ではあんな表情見せることないのに」

チラリと視線を向ければ、アリシア様の言う通り、妹姫は怒りを露わにして般若のような顔でこちらを見ていた。

 ……ああいう顔した女はよく見かける。あれは嫉妬だろうな。自分より下に見て蔑んでいたアリシア様が幸せそうであることが悔しいのだろう。

私が妹姫に会うのはこれが初めてだったが、アリシア様の境遇を知っていただけに、彼女に対しては悪感情しか待ち合わせていない。

ベールを付けるよう命令したり、アリシア様の悪評を積極的に流したのもあの妹姫だという。

アリシア様はそのあたり積極的に自らを語らないが、リズベルト王国から共に来た侍女に聞けば、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに話して聞かせてくれたのだ。

ちょうど三曲目が終わったタイミングだったため、私はここぞとばかりに、見せつけるようにアリシア様の体を自分の方へ引き寄せる。

そして無防備なアリシア様の頬にキスを落とした。

「キャアっ!」
「国王陛下が頬に口づけをされたわっ!」
「あの女嫌いで知られる方がか⁉︎」
「一生愛する宣言はどうやら本気のようだ!」

見ていた貴族たちの驚きの声が響く中、私は妹姫に敵意を持った目を向ける。

彼女は目を見開き顔を真っ赤にして憤慨しているようだった。

 ……いい気味だ。あの妹姫への復讐はアリシア様の幸せな姿を見せつけ続けることが一番効果的だな。

もちろん妹姫のことがなくても私はアリシア様を絶対に幸せにするつもりだが、より一層その想いが強くなった。

ふとアリシア様に視線を移すと、口角に笑みを浮かべたまま、凍りついたように固まっている。

突然人前で頬にキスをされ、処理能力を超えてしまったようだ。

私は噛み殺すように小さく笑い、凍ってしまった愛しい人を溶かすように、熱い眼差しを送ったのだった。
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