人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「突然どうしたのですか?」

「今日から陛下は正式に国王になられました。今までとは立場が変わられたため、口調も改めねばと思ったのです」

「おっしゃる意図は分かりました。確かに公の場ではその方がいいでしょう。でも2人の時は今までと同じでいいですよ。いえ、むしろそうして欲しい」

今までは私が王族で、ロイドが公爵であったため、ロイドがへりくだって話してくれていた。

だが、もうそうもいかないだろうと思っていた私は口調を改めたわけだったが、2人の時は今までと同じでいいと言ってもらえて、ホッと肩の力を抜く。

「そう? それなら2人の時はそうさせてもらうわね。ロイドも私に対して公の場でも、2人の時でも丁寧な話し方をする必要はないわよ?」

「それはなかなか慣れるのに苦労しそうです。アリシア様へはもうこの1年ずっとこの話し方でしたから。私はもともと王位継承権第2位という立場だったので、国王になった今も特にこういった周囲への話し方という点において変化はなかったのですが、唯一の例外がアリシア様ですね」

「ふふっ、それは確かに大変そうね。様なんて付けなくていいからアリシアって呼んでね」

なんでもスマートにこなすロイドがちょっと困った顔をしているのがなんだか可愛くて私は思わず笑みを漏らした。

王族の私が普段タメ口で話しかけられることはほぼないのだが、やはり丁寧な話し方は少し距離を感じがちだ。

タメ口でポンポン言い合う人たちを羨ましく思うことも過去にあった。

だからロイドが私にタメ口になってくれるのを実は少し楽しみにしているのだ。

「ではまず名前だけ。口調自体はおいおい慣らしていくようにします」

「分かったわ」

「ところで、人払いもして2人きりになったことですし、私も改めて伝えたいことがあります」

そう口にしたロイドは、仕切り直すかのように私に向き直りまっすぐに私の顔を見つめる。

ざぁっと風が吹いたかと思うと、今まで雲で隠れていた満月が姿を現し、月明かりが私たちを照らし出した。

「アリシア」

光が差したおかげでハッキリと見えるロイドの形の良い唇が、私の名前を紡ぐ。

初めて呼び捨てにされてドキンと心臓の鼓動が跳ねる。

「私もまだちゃんと伝えていなかったと気づきました。だから改めて言わせてください。……アリシア、私と結婚してください」

「えっ」

思わぬ言葉に驚きの声が漏れて、慌てて私は口を押さえる。

だって私たちは先程舞踏会で宣言した通り、すでに婚約状態で近日中に婚姻を結ぶことが決定しているのだ。

 ……なのに、ロイドはいきなりどうしたの⁉︎
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