人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
ロイドの手が伸びてきて、次の瞬間には彼の温かな体温に包まれる。

片方の手は私の長い髪をすくように撫でていて、そんな仕草はまるで不義の子として忌み嫌われたこの髪も含めて私を愛していると言ってくれているようだった。

それからどれくらい時間が経っただろう。

月明かりの下、お互いの存在を確認し合うようにしばらく無言で抱き合っていた私たちだったが、そろそろ戻らねば護衛も心配すると思った私は体を離そうと身じろぎをした。

「アリシア」

それを制止するかのようにロイドが私の名前を呼ぶ。

それに反応して、抱き合った体勢のまま、私は顔だけ動かしてロイドを見上げた。

すぐ目の前にロイドの整った顔があり、赤い瞳は優しく細められている。

「口づけをしても?」

続いて発せられたのは事前確認の言葉だった。

心の準備があるからあらかじめ知らせて欲しいと言った私の抗議を守るため、ロイドは小首を傾げて問いかけてきたのだ。

律儀なロイドらしい。

事前確認があったとはいえ、ドキドキするのは変わらない。

その鼓動を感じながら、私はコクリと小さく頷いた。

そして心の準備がてらギュッと目を瞑る。

てっきり舞踏会の時と同じように頬に口づけが落ちてくるものだと私は思っていた。

だが、予想に反してその柔らかな感触は全然違うところに落ちてきた。

すぐにそれを感じ取り、ビックリして心臓が飛び出そうになる。

それは唇への口づけだったのだ。

唇と唇が重なり合い、初めて感じる甘い感覚に打ちひしがれる。

重なった唇からは言葉を交わすだけでは伝わらない想いが、唇を通して伝わってくるようだ。

優しくて穏やかで、包み込むようなそれは、まるで前世で見た映画のワンシーンのようなキスだった。
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