人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる

03. 王女と監視役の公爵

とりあえず、相手を立たせたままというわけにもいかず、私はブライトウェル公爵に向かいのソファーへ座るよう促す。

同時にライラに紅茶を頼み、テーブルの上には素早くティーセットが用意された。

紅茶を飲みながら、私はベール越しに静かに相手を観察する。

こういう時、このベールはとても便利だ。

相手からは全く私の顔は見えないのに、付けている本人からは問題なく見えるという特別加工品になっている。

だから不躾(ぶしつけ)な視線も相手にバレることなく済む。

ブライトウェル公爵が澄ました顔で紅茶を飲み始めたのを確認し、私は先程の続きを切り出した。


「……えっと、ブライトウェル公爵にお伺いしたいのだけど……監視、いえ、連絡係っていうのは具体的にどんなことを?」

「そうですね、定期的にこちらへ訪問させて頂き、何かお困りのことがないか、エドワード様にお伝えしたいことはないかをお伺いする形になるかと」

「それならわざわざ来て頂かなくても、私が侍女か護衛に伝言し、それをあなたに伝えてもらうようにするのでも良いのではないかしら? ブライトウェル公爵はお忙しいでしょうし申し訳ないわ」


あなたのお手を煩わせたくないのよオーラを出しつつ、私が来訪を回避しようと述べれば、彼は再び美しい顔に笑顔を浮かべる。

でも目が笑っていない。というか鋭い。

「いえ、ご心配なく。エドワード様に直々に申しつけられましたので私の任務のうちです。……それとも、王女殿下は私に来られると困るようなご事情でも?」

笑顔のまま、探るような視線を寄越すという器用な表情を向けられ、後ろ暗いところがある私はドキリとする。

 ……これ以上拒否すると変に勘繰られそうね。ただでさえ良く思われていないみたいだし。


怪しまれて監視を強化されるのは本意ではない。

それにこの人は一見感じの良い好意的な笑顔だけど、明らかにわざと作っているのを私は察していた。

王女として尊重されつつ、内心馬鹿にされている時に今までよくこの社交的な笑顔を相手から向けられてきたものだ。

人から純粋な笑顔を向けられる経験の少ない私はその違いをよくよく敏感に感じ取れるようになっていた。


「まさか! 困るだなんて、そんなことはもちろんないわ。ただお忙しいのに申し訳ないなと思っただけよ。エドワード殿下のお心遣いに感謝するわ」

「そう言って頂けるのでしたらエドワード様も喜ばれるでしょう」

「それで、定期的というのはどれくらいの頻度かしら? 時間帯は?」

「……なぜそれを気にされるのですか?」

再び疑うような目を向けられ、内心「しまった」と焦る。

つい城を抜け出す計画を早く練りたくて、性急に色々聞いてしまった。
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