人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「なんだかすごく緊張するわ」

「大丈夫。アリシアはいつも通り笑顔で手を振っていればいい」

隣にいるロイドにこっそり囁けば、彼は私を励ますように腰に手を回す。

最近では徐々に慣れてきたらしく、ロイドはタメ口で話すようになっていた。

私はロイドの言葉に頷いて見せ、気合を入れるようにお腹に力を込めてから、まっすぐに前を見据えた。

しばらくすると、ザワザワと賑やかな声が耳に飛び込んできて、それはだんだんと近づいてくる。

メインストリートへ続く道の角を曲がった途端、私の目に飛び込んできたのは、所狭しと集まった人々の姿だった。

馬車が現れた瞬間、ワッと割れんばかりの歓声が上がる。

「ご結婚おめでとうございます!」
「おふたりのご結婚を心よりお祝い申し上げます!」
「国王陛下、王妃殿下、万歳!」
「この国をどうぞよろしくお願いします!」

群衆からはお祝いの言葉が口々に紡がれ、拍手や指笛が奏でられる。

どこを見渡しても笑顔の人々ばかりで、皆が心からこの結婚を祝福してくれているのが伝わってきた。

それに応えるように笑顔で手を振っていた私は、ふと人混みの中にある親子の姿を見つける。

フォルトゥナのエドガーさんとミアだった。

2人は涙ぐみながら大きく手を振り「おめでとうございます。そして色々ありがとうございました」と声を張り上げている。

舞踏会で貴族に素顔を晒して以来、私がフォルトゥナに行くことはできなくなった。

直接挨拶は出来なかったのだが、私は2人に宛てて手紙を書き、それをライラに託して届けてもらった。

人質として制限された生活の中、心の拠り所となってくれたあの場所への感謝を綴り、2人にだけは真実を伝えたのだ。

ライラによると、エドガーさんとミアはそのことを2人の心のうちに閉まっておいてくれるそうで、他の人には話していないらしい。

もともと不定期で月に1〜2回くらいしかアルバイトもしていなかったので、常連客などもシアと王妃が同一人物だとは気づかないだろうとのことだ。

仮に王妃と似ていると言われても違うと言い張ってくれているという。

そういった心遣いも聞いていただけに、2人の姿を見つけると胸に込み上げてくるものがあり、私はより一層大きく手を振った。
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