人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「国王陛下〜! 素敵ですー!」
「王妃殿下、お美しいですー!」
「お似合いのおふたりに万歳!」

人々からの歓声はその後もとどまることを知らない。

初めて私たちの姿を目にする民も多く、馬車が通り過ぎるたびにどんどん盛り上がりは増していくようだった。

「こんなに大勢の男たちがアリシアを見つめていると思うと妬けるな。みんないつにも増して美しいアリシアに釘付けになっている」

「えっ? そんなことないと思うけど? むしろ私なんて添え物で、みんな国王であるロイドを見ているわよ」

「いや、私には分かるんだ」

笑顔でお手振りをしていたら、急に隣にいるロイドが突拍子もないことをこぼした。

私の否定の言葉にも耳を貸さず、確信しているような口ぶりだ。

「アリシアと私の仲を見せつけておかないと」

そうポツリと小さな声で呟いたロイドの声は歓声にかき消されて私の耳には届かなかった。

何の予告もなく、突然肩を抱かれてぐいっと引き寄せられると、柔らかい感触が唇に降ってくる。

「キャアぁぁぁぁ――――!!」
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」

たちまち割れんばかりの悲鳴と拍手が鳴り響き、あたりは今日一番の盛り上がりで包まれた。

この一件は後日国中で話題の的となり、このシーンを描いた絵姿が大流行することとなる、というのは余談だ。

「ロ、ロイド⁉︎」

「これで国中の者に私とアリシアがいかに愛し合っているか知れ渡ることだろう」

満足気な表情で口角に笑みを浮かべるロイドは、実に楽しそうだった。

そしてその赤く美しい瞳には今日も変わらず私への愛が溢れている。


1年前、リズベルト王国で婚姻を言い渡され、国を出る時には、こんな未来をまったく想像もしていなかった。

王族としての身分しか価値のない私は、国のため人質として愛されることのない結婚をし、お飾り妃として生きる覚悟だった。

それで良いと思っていた。

衣食住に困らないだけで恵まれていて、自分は幸せだと信じて疑わなかったのだ。

そうして始まった人質生活。

監視役であったロイドとの出会いが、私の運命を変えたのだ。

今こうして、私自身を求めて愛してくれる人の隣にいて、一生を誓い合った。

幸せすぎてふいに怖くなる。

でもロイドは言うのだ、アリシアには幸せになる権利があるし、まだまだ幸せにし足りないと。

有り余るくらい十分幸せなのに、ロイドはまだまだ私に愛を注ぎ、幸せを与えてくれるつもりらしい。

だから私は決めたのだ。

この幸せを、この国の王妃として、民に還元していこうと。

前世の記憶があるゆえに貧困に喘ぐ気持ちを知っているからこそ、私にできることがあるはずだ。

みんなの笑顔が絶えない、そんな国を彼の隣で一緒に作っていきたい、そう思うのだ――。


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