人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「だって、ほら、女性は準備に色々時間がかかるじゃない? ブライトウェル公爵が直々に訪問くださるのなら私も変な姿を晒せないもの!」

私は咄嗟に貴族女性ならではの事情を持ち出して、誤魔化しにかかる。

エドワード殿下に謁見する前には30分でパパッと身支度を整えたばかりだというのに、二枚舌もいいところだ。

だが、その理由には納得がいったようで、彼は「ああ、確かにそうですね」と理解を示した。

やはり彼も普通の貴族令嬢はそういうものだろうと心得があるようだ。


「では、最初は色々不慣れでお困りのこともあると思いますので、3日に1度ほどお伺いしましょう。時間帯は私の執務の状況にもよりますが、基本はお茶の時間帯にいたしましょう」


お茶会の時間帯というのは、前世の日本で言う午後3時くらいのことだった。

この世界では、その時間に紅茶を飲む文化があるのだ。

執務をしている人の手を止めさせて休憩を取らせるのが目的だったと言われ、今では当たり前のように根付いている。


「分かったわ」

「では3日後にまた伺います」


ブライトウェル公爵は飲んでいた紅茶のティーカップを静かにテーブルの上に置くと立ち上がり、退室の挨拶を済ませてその日はそのまま帰って行った。


 ……なんていうか、綺麗な作り笑顔を浮かべる人だったわね。冷静に淡々と話すところは、クールな切れ者って感じ。さすが王太子の一番の側近だわ。

あの人には睨まれない方がいい気がする。

監視役として定期的に顔を合わせるなら、今後を見据えて最低限の良好な関係は築いておくべきだろう。

こんなふうに最初は邪魔でもそれなりの対応をと考えていた私だったが、それから5回程顔を合わせるうちに彼への認識は完全に変わった。

 ……え、ロイドって歩く図書館かしら? めちゃくちゃ良い情報源だわっ!

ブライトウェル公爵と呼んでいたのも改め、本人が良いというのでロイドと呼び捨てて気軽に話し掛けるまでになっていた。

なぜかと言うと、彼はなんでも知っていて、私の疑問をなんでも分かりやすく答えてくれるので、ユルラシア王国に来て右も左も分からない私にとって、かなり貴重な存在になったからだ。

それこそ最初は城を抜け出す算段のために、まずは王宮内を把握しようと、王宮の主要場所の配置を聞いてみた。

すると地図のようなものを持って来て説明してくれたのだ。

次に、ライラのためにもユルラシア王国の甘味について尋ねたところ、城下で人気のお店なんかの情報まで含めて色々細かく教えてくれた。

その質問をした次の訪問時には、お土産にユルラシア王国で人気だというチョコレートまで持って来てくれたのだ。

これにはライラが大喜びで、一気にロイドの株が爆上がりしていた。
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