人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「どうかしたの?」

「アリシア様は、エドワード様がこちらに全く来られないことをなんとも思っていらっしゃらないのですか?」

「ええ、もちろんよ。最初に寵愛を与えるつもりはないって言われているもの」

「それでも不満に思ったりとかは?」

「全くないわよ! むしろ早くお子が産まれるといいですねくらいに思っているもの。そうなればユルラシア王国も跡継ぎができて安泰でしょう?」

「確かにそうですが」

「私は同盟のための婚姻を結ぶためにここにいるのだから、両国がそれで平和なら喜ばしいことだわ。ねぇ、それより今日は城下のことを教えてくれない?」


まだ不可解げにしているロイドを捨て置き、私は今日の本題を切り出す。

この国に来て半月以上が経ち、やっと生活にも慣れてきた今、いよいよ城を抜け出す計画を実行に移そうと思っている。

そのために、詳しく城下のことについて情報を得ておきたかった。

城下の町は馬車で目にしたくらいだし、休みの日にライラが行った時の話を聞くくらいで、圧倒的に情報不足だったのだ。


「城下のことですか? 具体的にはどんなことを知りたいのです?」

「そうね、例えば城下の地図だとか、有名なお店の場所だとか、あと通らない方が良い道だとかが知りたいわ」

「やけに具体的な内容ですけど、なんでまた急に?」

「ほら、前に王宮のことやこの国の貴族については教えてもらったでしょう? だから次はこの国に住む(たみ)の暮らしが知りたいなと思って。王族として知っておくべきことだと思わない?」

私がそう建前の理由を話すと、一応納得してくれたらしいロイドは従者に言って何かを持って来させる。

しばらくして従者が持って来たのは、まさに私が見たかった城下町の地図だった。

それを使いながら、いつものようにロイドは淡々とした口調ながら分かりやすく説明してくれる。

 ……やっぱりロイドに聞いて正解だったわ! 私が知りたかった内容ばかりで本当に助かる!

だいぶ見慣れてきたロイドの美しい横顔をベール越しに見つめながら、私は心の中で彼に大きな拍手を送る。

これで問題なく、さらに自由気ままで楽しい人質生活になることだろう。

次にロイドがここを訪れるのは3日後だから、その間にさっそく計画を実行しようとワクワクしながら私は決意を固めたのだった。
< 19 / 163 >

この作品をシェア

pagetop