人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「ところで、君はそのベールを室内でも取らないつもりなのか?」

エドワードは、王女が顔を覆うように付けている白いベールを指差しながら問いかけた。

王女の顔は完全に隠れてこちらからは伺い知れず、分かるのは少しだけ覗いている良く手入れされた美しいハニーブロンドの髪だけだった。


「はい。我が国の王族は婚姻するまで人に顔を見せないことを良しとする文化がございますので」

「だが、君の妹は大層美人だと耳にするが? つまり顔を晒しているということであろう?」

「ええ、妹はそうです。なにぶん古い伝統文化のため廃れつつあるのですが、(わたくし)は大切に守りたいと考えておりまして、ぜひ殿下にもご理解頂けますと幸いです」

「まぁ別に君の好きにすればいい。私は気にしないからな」

「ご理解賜りありがたく存じます」


再び美しい所作でお辞儀をした王女を、エドワードやその周囲の側近は嘲笑(あざわら)うような目で眺めていた。

なぜなら王女がベールを取らない理由が本人が述べたものではないと知っていたからだ。

その後、一言二言エドワードと言葉を交わした王女はその場を退室していく。

王女がいなくなった途端、エドワードは耐えかねたように「ふはっ」と笑いを漏らした。

「聞いたか? 噂は本当だったな。あんなに頑なに顔を隠すなんて、よっぽど醜い顔なんだろうな」

「古い伝統文化だと言い張るなんて強情ですね。我儘だというのも本当なのでしょう」

「そんな王女を差し出すなどと、リズベルト王国は小国のくせに我が国を舐めているのでしょうか? 美しいと評判の第二王女を差し出してしかるべきですよ!」

エドワードの一言を皮切りに、周囲を囲む側近たちが口々に王太子に追随する台詞を発し出した。

あの王女には「容姿が醜い上に我儘で性格まで歪んでいる」という評判があり、事前調査でそのことをこの場にいる全員が把握していたのだ。

「まぁ私には側妃がいるから問題ないし関心もないが。リズベルト王国もそれを分かっていてあの王女を差し出したのだろうな。あくまで同盟のための人質で、その意味では充分だからな」

「それはエドワード殿下のおっしゃる通りですね。せいぜい大人しく過ごしてもらいましょう」

「そうだな。愛する側妃と過ごす私の時間を奪わないでくれるならなんでもいい。そこで、ロイド。お前に頼みがある」

執務を放り投げて側妃との愛欲の日々を貪ることで忙しいエドワードは、酷く投げやりな口調でロイドに話し掛けた。

先程からのエドワードと側近の会話には加わっていなかったロイドは、名指しされ、一歩近寄って傾聴の姿勢を見せる。

その顔はいつも通りに端正に整っており、頼みと聞いて「また変なことを言い出すのでは」と内心(いぶか)しがっているなんて、誰も気づかない。

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