人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「それにしても、厄介な役回りを押し付けられたね。王女のご機嫌取り役なんてさ。女嫌いのロイドには地獄でしょ? 相変わらずエドワード様は人使いが荒いしロイドを酷使しまくってるよね」

アランは主がいないのをいいことに、辛辣な言葉を吐き出した。

その口ぶりはただの悪口ではなく、昔馴染みだからこその気やすさが滲んでいる。

というのも、王太子であるエドワード様と、侯爵家嫡男のアラン、そして公爵家嫡男の私は、同い年の高位貴族同士とあって幼少期からよく顔を合わせていた。

言わば幼なじみのようなものだった。

父母を早くに亡くしすでに爵位を継いで公爵となっている私に対してアランがこの軽口なのもそれゆえだ。

「昔からエドワード様はなんでもロイドに頼りすぎなんだよ。まぁそれをロイドがいつも涼しい顔でこなしてしまうから癖になってるんだろうけど。でもここ最近はちょっと度が過ぎてるとは思うけどね」

アランが言うここ最近とは、リズベルト王国との戦いが終結し同盟を結ぶことに決まったあたりからだろう。

それは王妃が亡くなり、国王陛下が静養に入られた時期でもある。

陛下は優秀な方で、臣下からの信望も厚く、そして大変な愛妻家だった。

王族は正妃に加え、複数の側妃を持つことが許されており、歴代の国王はほとんど複数の妻を持つ者ばかりだった。

それは安定した王位の継承のためでもある。

だが、現在の国王は王妃ただ1人を愛していて、他は不要だと言い切り、実際に王妃のみを愛し抜いたのだ。

その愛の深さゆえなのか、王妃が病で亡くなると、国王も呼応するように気力がなくなり体も衰弱。とても政務に励める状態ではなくなった。

静養に入る事態を余儀なくされ、これによりすべての政務がたった一人の息子である王太子に回ってくることとなった。

それで奮起してくれれば良かったのだが、エドワード様は側妃を迎えてからと言うものの、ここ2年ほど朝も昼も夜も彼女の側を片時も離れず、すっかり政務を側近に放り投げていた。

もともと自分に甘く、快楽に流されやすい性質(たち)のエドワード様を叱咤激励するような女なら良かったのだが、残念ながら側妃は自分が美しく着飾り贅沢することしか能のない頭の悪い女である。

寵愛を得続けるために褒めて甘やかすだけで、日に日にエドワード様の言動は悪化するばかりだった。

それゆえ国王の代行として回って来た政務は、エドワード様の側近で処理し、最終決裁だけなんとかお願いするという日々となっている。

その側近も私とアランを除けば、自分に甘い言葉をかけるような者ばかりをエドワード様が取り立てたため、執務室にアランと2人きりという状態がすっかり常態化している始末だった。
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