人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「そういえばさ、あの王女様と会ってきたんでしょ? どうだった?」

「どうだった、というのは?」

アランの言葉に楽しげな響きが含まれているのを感じ、私は眉根を寄せた。

彼の意味するところが分からなかった。

「いやさ、あの王女様、聞いてたのと違うって思わなかった? それに何かちょっと変わり者な感じがするなぁって。ロイドはそう思わなかった?」

アランは今日彼女が王宮に到着した時の出迎え担当で、その後執務室への案内もしている。

直接言葉を交わす機会があり、そう感じたのだろう。

そしてそのアランが感じている印象はまさに私が感じていることと全く同じだった。

「アランに同意だな。聞いていたのと違うなと私も思った」

「だよね? 実はさ、出迎えた時に荷物と使用人の話になったら、後から来るものはないって言うんだよ。貴族令嬢なんて皆、馬鹿みたいに荷物多いのに驚いちゃってさ」

「確かに馬車の分だけで足りるなんてかなり少ない荷物だな」

「使用人も侍女1人だって」

「それはさすがに生活に困るんじゃないか? 護衛に加えてこっちで人を手配すべきかもな」

「その方がいいかもね。あとさ、部屋に案内した後、謁見に向けて身支度に時間がかかるだろうから3時間後くらいに迎えに来るって伝えたら、なんて言ったと思う? 30分後でいいって言われて、実際に30分後に部屋から出てきちゃったんだよね。荷物以上にビックリさせられたよ」

貴族令嬢はなにかと身支度に時間がかかる。

それは私たち貴族の一般常識のようなものだったから、アランの驚きにも共感できた。

そこでふと先程の彼女との会話を思い出す。

 ……連絡係としての訪問の頻度と時間帯を聞く理由に、身支度に時間がかかるからと言っていなかったか? 

アランの話によると彼女の身支度は非常に短いらしいので、なんだか矛盾しているように感じる。

あれは何かを誤魔化すための言い訳だったのかもしれない。

「醜い容姿で性格も歪んでる我儘王女とは聞いてたけど、話した感じそうでもなかったし、色々変わってるから興味深いよね。案外、あのベールの下は美人だったりしてね?」

「それなら隠す意味ないだろ? むしろ喜んで曝け出しそうなものだけどな」

「だよねぇ。貴族令嬢は美しさをひけらかすもんだもんね。それならやっぱり噂通りなのかな。ともかくロイドはこれからも会って話す機会が多いんだし、何か面白そうなことあったら教えてね」

アランは完全に野次馬根性で呑気にそんなことを宣った。

こっちは執務に加えて余計な役割が増えて憂鬱だというのに、他人事だと思ってずいぶん楽しそうだった。
< 22 / 163 >

この作品をシェア

pagetop