人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
◇◇◇

それから3日後。

予定通り、私はアリシア王女のもとに連絡係として訪問した。

日程と時間が決まっていたからか、先日と同じ侍女がすぐに応接間へ案内してくれる。

どうやらこの侍女が自国から唯一連れて来たという者のようだ。

案内された応接間には、先日と同様、アリシア王女が優雅にソファーに腰掛けて待ち構えていた。

「いかがですか、ユルラシア王国での生活は? 何かご不便などございませんか?」

連絡係という名のご機嫌伺い係として、私は型通りの問いかけをする。

これで我儘王女の悪名(あくみょう)よろしく、不平不満をぶちまけてくるかもしれないなとやんわり観察するような目を向けた。

なにしろ彼女の生活は、基本的にこの離宮か、王宮の庭くらいしか行動を認められておらず制限が多い。

生活も普通の王族に比べるとずいぶん質素なものだろうし、そのうえ婚約者である王太子は無関心ときている。

人質生活を覚悟して来ていたとしても、耐えられないと感じ始めていて不思議はなかった。


「不便は特にないわ。大丈夫よ。侍女も手配してくれたようで助かっているわ」

だが、そんな予想に反して、アリシア王女は明るくこんなセリフを言い放つ。

ベールで顔は見えないが、その態度からは決して言葉だけという様子でもなかった。

「それよりせっかくだから、ブライトウェル公爵に伺いたいことがあるの。良いかしら?」

現状に不便はないと言い切ったことを内心意外に思っていると、今度はアリシア王女の方から私に質問をしたいと言う。

女がこういうふうに言ってくる時は、大概碌なことがない。

私に近づくために、好みの女性のタイプやドレス、食の好みなどを探られるのだ。

媚を含んだ欲深い目で見つめられ、体を寄せられ、耳元で囁かれ……思い出すだけで寒気がするくらいだった。

まさか王太子の婚約者という立場の王女がそんなことをしてくるとは思えないが、欲深い女は何をしでかすか分からない。

女という生き物が嫌いで信用していない私は、思わず警戒してしまうのを止められないでいた。

しかしそんな身構えていた部分は、次の王女の一言で即効消し飛ばされてしまった。

「伺いたいのはね、王宮についてなの。もちろん私が立ち入ってはいけない場所が多いのは理解しているけど、自分の住む王宮内のことをきちんと把握はしておきたいのよね。例えば、何か有事が起こった際も知っているのと知らないのでは逃げる時に差が出るでしょう? だから全体像や主要な場所の配置くらい知っておきたいと思って」

アリシア王女の質問というのは、ごく真っ当なものだったのだ。

それも、知りたい理由についてもひどく納得のいくもので「なるほど確かに」と思わされた。

自衛、防衛という点においても、それは彼女の指摘した通りだと言わざるを得ないだろう。
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