人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
客観的に見て、こんな制約されて、婚約者にも蔑ろにされた生活は恵まれているとはとても言い難いと思う。

内心衝撃を受けながら、なんとか口を開き、機会があったら伝えておくと言えば、「側近なのに頻繁に会わないのか」と痛いところをツッコまれた。

アリシア様にはエドワード様が執務はほとんどしておらずに側妃のところにベッタリだという事実は伏せていたからだ。

なんとか取り繕えば、彼女の方から「側妃のもとに通うのにもお忙しいでしょうね」という言葉が紡がれる。

その言葉には側妃に対して嫉妬するだとか、王太子に不満を持つだとか、そういったニュアンスは全く含まれておらず、なんの感慨もないように聞こえた。

「アリシア様は、エドワード様がこちらに全く来られないことをなんとも思っていらっしゃらないのですか?」

そこで思い切ってこう切り出してみれば、至極あっさりと「もちろん」と返される。

さらに早くお子が産まれると良いわねと他人事のように話すから驚いた。

「私は同盟のための婚姻を結ぶためにここにいるのだから、両国がそれで平和なら喜ばしいことだわ」

極め付けには自分を国の駒のように認識している言葉が飛び出す。

聞く人が聞けば、なんて王女としての矜持が高いお方なのだと感動することだろう。

だが、私はそうではなかった。

 ……この生活を恵まれたものと感じ満足しているというし、婚約者からの関心も求めず、さらには両国が平和なら嬉しい? アリシア様は心配になるレベルで無欲すぎないか……?

我儘王女の悪名はどこへ行ったのだと本気で不思議でたまらない。

我儘どころか、何の欲もない。
何も望まないのだ。

地位や名誉、豪華な生活、ドレスや宝石、愛情など、私の周りにはそれらを求めてやまない強欲な女が山程いる。

そんな女ばかりを見て来た。

だからアリシア様のこの在り方は私に驚きをもたらし、同時に不可解でたまらないものだった。

 ……これは王族という人種独特の考え方なのか? 最高位になれば無欲になるとか? いや、でもエドワード様は欲の塊だしな。とすると、王族の中でも王女だけが無欲とか? いや、他国の王女も見たことあるが決してそうではなかったな。

アリシア様は自分の発言が私に混乱をもたらしているとは露知らず、いつものように質問をしてくる。

それに冷静に答えるふりをしつつ、私の頭の中は数々の疑問でいっぱいだったーー。
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