人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる

05. 城下町へのお忍び

「……アリシア様、本当にやるのですか?」

「今さら何を言ってるの。もちろんよ! リズベルト王国でもいつもやっていたでしょう? ライラも協力してくれていたじゃない?」

「でもここは他国ですよ? しかもいつもみたいに同行する護衛役もいませんし……」

「大丈夫よ。むしろこの国の方が安全だと思うわ。誰も私の顔を知らないからバレてしまう心配もないもの」


王宮にある私の部屋の中で、私とライラは2人きりで向かい合っていた。

ライラは王女にふさわしい華やかな装いを、私は侍女にふさわしいシンプルで動きやすい装いをしている。

つまり、いつもと真逆の格好だった。


「仕上げはこれね。ライラはこの状態でずっと部屋にいてくれれば大丈夫だから。本を読んだり、刺繍したりしながらのんびりしててね!」

私はいつも自分がしているベールをライラの髪に固定して顔を隠した。

 ……うん! バッチリね!

少し離れて客観的にライラの姿を見てみれば、もうどこからどう見てもいつもの私だ。

そう、私は今、ライラに影武者をお願いしているのだ。

実は私とライラは年が近いだけでなく、髪色や背格好も似ている。

顔は全然似ていないので、本来は影武者なんて無理な話なのだが、それを可能にしてしまうのがベールだ。

私が普段から顔を隠していて、誰にも素顔を知られていないからこそ、ベールさえライラが付ければ影武者が完成してしまうのだ。

私自身はライラになることはできないが、王宮には侍女がたくさんいるので、それに紛れ込んでしまえば案外なんとかなる。

エレーナに顔を隠せと命令され、ベールを付けるようになって以降、自国でもこうしてライラを影武者にして、私は王宮をよく抜け出していたのだ。

「はぁ、やっぱりお止めするのは無理ですね。では、こちらが王宮への出入許可証です。王宮の門を出入りする時に提示が必要になります。また、門に行く前にまずは私の部屋で侍女服から私服に着替えてくださいね」

「分かったわ。場所は予習済みだから大丈夫よ」

なにしろこの日に向けて、ロイドから王宮内や城下町の位置関係を学んだのだ。

私は頭の中で配置を思い出しながら、ライラから出入許可証を受け取る。

王宮への出入りは、王宮から発行されたこの許可証を見せるか、王宮内の人物からの直接的な許可を得た者のみとなっているそうだ。

「本当に大丈夫ですよね? ブライトウェル公爵は今日は来られませんよね?」

「ええ、ロイドが次来るのは明後日よ。護衛や他の侍女には今日は一日ゆっくりしたいから部屋に籠るわねって伝えてあるから大丈夫よ」

念には念をと心配そうに確認してくるライラを安心させるように私は微笑んだ。
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