人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
ライラが腹を括ったタイミングで、私はさっそく部屋を抜け出す準備を始める。

ロープと手袋を取り出し、部屋にある頑丈な柱にロープの端を括り付け、反対側の端を窓の外に投げ出した。

周囲に人がいないのを確認すると、慎重にロープで下へ降りていく。

部屋は2階だから大した高さもないし、窓側はもともと人通りがないから見られる心配もない。

ものの数分で私は無事地面に降り立つことに成功した。

私がこんなことができるのは、自国でも物心ついた時からやっていて慣れているからだ。

外へ出たいという欲求と反復練習は、人の潜在能力を引き出したようで、「案外なんでも頑張ればできるようになるのね」と感動したものだ。

窓を見上げればライラが「王女なのに……」と言わんばかりの表情をしているが、それでも私のこの姿を見慣れているからライラの動きは素早い。

手早くロープを回収し、窓を閉め、何事もなかったかのように現状復旧をしてくれた。

窓越しに私を見ているライラに手を振って、私はさっそく予定通りの行動に移る。

まずは離宮内にあるライラの部屋に行き、用意しておいた街歩き用のシンプルなワンピースに着替えた。

ライラは顔が知られているから、本人以外が部屋に出入りしているのを見られるわけにいかず、実はここが今回一番の難所だ。

私は細心の注意を払いながら、周囲を警戒してライラの部屋を出ると、あとは何食わぬ顔で王宮内を歩く。

 ……ふぅ。難所はクリア! あとは門から出るだけね。

ホッとしながら王宮勤めの者が出入りする門へ向かい、私は例の許可証を提示する。

門番を務める衛兵はそれを確認したあと、なぜか私の顔をまじまじと見つめてきた。

この反応に一瞬ドキリとするが、この衛兵が王女アリシアの顔を知っているはずがないので、私は動揺を顔に出さず努めて平然を保った。

むしろ目を逸らしたりしたら怪しまれそうだと思い、じっと見つめ返してみたところ、相手の方が先にパッと顔を逸らした。

そして門を開けて外へ通してくれた。

 ……やった! 王宮からの抜け出し成功!

門から一歩外に出て、背後を振り返り王宮を目に入れると小さな達成感が押し寄せてくる。

同時にワクワクした気持ちが高まってきた。

 ……ええっと、城下町の方へ行くにはまずは乗り合い馬車だったわよね。確か王宮から出て少し歩いたところに乗り場があるのよね。

はやる気持ちを抑え、私は事前にライラから教えてもらった乗り合い馬車を探す。

場所はすぐに見つかり、私はお金を払って馬車の中へ乗り込んだ。
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