人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
普通の王女は、馬車に人と相乗りするなんてとんでもないと思うものだろうが、私はそのあたりは全然抵抗がない。

それはやはり前世の記憶があることが大きいのだろう。

乗り合い馬車は、前世でいう公共のバスや電車みたいなもののため、ごく当たり前の感覚だった。

ある程度の人数が集まるまで待っていた馬車は、しばらくして定員になったのかようやく城下町の方へ向かって動き出す。

それからガタゴトと揺られること30分程、だんだんと賑やかな声がするようになってきたなと思ったところで馬車が停車した。

どうやらここが目的地の城下町のようだ。

他の乗客に続き降り立った瞬間、馬車の中にいた時よりも大きく、賑やかな声が耳に飛び込んできた。

 ……わぁ! リズベルト王国からこの国に来た時に馬車から眺めていた様子よりも活気があるわね!

王宮をこっそり抜け出し、念願の城下町へとやって来た私は、感嘆の声を心の中であげる。

乗り合い馬車の到着場所は、城下町の中でもメインストリートだったこともあり、大変な賑わいが見て取れた。

石畳の道の両脇にはたくさんのお店が並んでいて、道ゆく人々は楽しそうに買い物を楽しんでいる。

確かここは城下町の中でも高級店が立ち並ぶエリアで、道が舗装されていて、外観も綺麗だ。

見かける人々の服装も洗練されており、貴族や豪商などの裕福な平民が多いようだった。

今日の私の装いも、下位貴族がお忍びで街に来た時くらいのものだから、ここでは浮いていないだろう。

さっそく私は観光気分で街を歩いて見て回る。

すると早々に列が出来ているお店があることに気付いた。

 ……あれ? もしかしてここのお店ってロイドがこの前教えてくれたところじゃないかしら?

ダリオルという甘味を売っている人気のあるお店だと言っていたはずだ。

ダリオルは型に生地を敷き、卵と牛乳でつくったクリームを入れて窯で焼いたパイ菓子のことだそうだ。

前世で言えば、エッグタルトのことだと思う。

お店の近くにいるだけで、ふんわりと甘い匂いが漂ってきて、食欲をそそられる。

せっかくだから影武者を務めてくれているライラへの労いを兼ねたお土産に買って帰ろうと私も列の最後尾に並ぶ。

回転率は早いようで、さほど待たずにライラと自分用にいくつか購入することができた。

本当はこのお店を教えてくれたロイドにも御礼として買って帰りたいところだけど、王宮を抜け出していることは絶対にバレるわけにはいかない。

残念ながら心の中で御礼を述べるだけで済ませるしかなかった。
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