人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「あの王女と私との間に入って連絡係をしてくれないか? 私は側妃との時間を堪能したいから、あの王女に気を配るつもりは一切ない。だから、まぁ連絡係というか、私の代わりに定期的に訪問して適当にご機嫌伺いでもしておいてくれ」

「……は? 私がですか?」

「ロイドは顔が良いから女なら喜ぶだろう? 人質として憐れに過ごすあの王女にせめてもの情けだ」


エドワードがそう述べると、腰巾着のような側近たちは「なんと慈悲深い!」と持ち上げる。

一方のロイドはというと、自分の婚約者ぐらい自分でなんとかしろという言葉を必死に飲み込んでいた。

ただでさえ、執務を押し付けられてエドワードの尻拭いをしているロイドへの慈悲はないのかと言ってやりたいところだった。

「……私でなくても良いのでは?」

ロイドはダメ元でやんわり抵抗を試みる。

昔から一度言い出したら意見を変えないエドワードの性格は知っていたが、意見せずにはいられなかったのだ。


「一応相手は王女だからな。それ相応の身分は必要だろう? 公爵のロイドなら身分的に問題ない上に、王女は尊重されている気分にもなるだろうからちょうどいい。こんなことがすぐに思い付くなんて私は天才かもしれないな。ははは」

エドワードはさも楽しそうに笑い声を上げ、そろそろ側妃のところへ行くと言い出したことで、この話は覆ることのない決定事項となった。

この出来事が、本日の数時間前のこと。

そして、ロイドが憂鬱を隠せずにいる理由であった。


 ……まったくエドワード様には困ったものだ。


王女に与えられた王宮内の離宮へ足を運びながら、ロイドはため息を何度となく噛み殺した。

エドワードに対してのみならず、これから連絡係という名目のご機嫌伺い係として頻繁に顔を合わすことになるだろう王女に対してのため息も含まれていた。

王女の部屋に到着すると、扉の前に立つ護衛はロイドを認識してすぐさま侍女へと取り次いでくれる。

ほどなくして通された応接間には、先程同様に白いベールで顔を覆ったハニーブロンドの女が優雅にソファーに座り待ち構えていた。


 ……さて、どんな不平不満や我儘を言われることになるのやら。こんな損な役回り、なぜ私が。本当に気が重い。


ロイドは心のうちを押し隠し、その美しい顔に社交的な笑みを浮かべる。


「王女殿下、お寛ぎのところ失礼いたします。私はエドワード殿下の側近で、ブライトウェル公爵家の当主、ロイド・ブライトウェルと申します。このたび、エドワード殿下からの命により、連絡係の任を受けました。エドワード殿下はお忙しい方ですので、なかなかお時間が割けないため、なにかありましたら私までお申し付けください。王女殿下に我が国で心地良く過ごして頂けるよう努めてさせて頂きます」


ベールで顔は見えないが、王女がこちらに視線を向けるのをなんとなく感じたロイドは、さらに笑みを深めた。


これがロイドとアリシアがお互いを初めて認識し合った時、そして運命が動き出す始まりの瞬間であったーー。
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