人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
 ……それにしても、やっぱりユルラシア王国は大国ね。豊かな国だし、民からも笑顔が溢れているわ。

華やかで活気のある街を歩いていると、私の生まれ故郷であるリズベルト王国との国力の差を目の当たりにした気分になる。

この大国と長年敵対して持ち堪えられたということは、私の思った以上にリズベルト王国の騎士団は優秀だったのかもしれない。

武力が劣っていれば一気に飲み込まれていてもおかしくなかっただろう。

ぼんやりそんなことを考えていたら、どうやら私は結構奥まったところまで歩いて来てしまっていたようだ。

先程とは一転、このあたりは人気(ひとけ)がかなり少なかった。

 ……マズイわね。早めにさっきいたあたりまで戻った方が良さそうだわ。

肌感覚でそう感じ、引き返そうとしたその時、少し先にいる女性が2人の男に囲まれているのがふと目に留まった。

男たちが何やら熱心に話しかけていて、女性は怯えながら拒否しているように見える。

男たちはどんどん距離を詰め、いよいよ女性の肩を引き寄せようと手を伸ばし出す。

女性は小刻みに震えながら拒むように体をよじって抵抗しようとしていた。

 ……ああ、ダメだ、見てられないわ……!

私はおもむろにそちらの方へ近づいていくと、女性に手を伸ばそうとしていた男たちの手を叩き落とした。

「おやめなさい! 彼女、嫌がっているじゃないの!」

「はぁ⁉︎ なんだ、お前は⁉︎」

邪魔をされて頭に血が上った男たちが私の方を勢いよく振り向き、ギロリと睨んでくる。

が、私の姿を認めた瞬間、今度はニヤニヤと下品な笑いを浮かべ出した。

「うひょっ、いい女じゃないか。お前もこの女と一緒にまとめて相手してやるよ」

「ちょうど俺たちも2人だし都合が良いからな。ほら、来い。俺たちといいことしようぜ?」

再び女性と私に向かって手を伸ばして近づいて来た男たちを私はひと睨みすると、その腕を払い、間合いを一気に詰め、下からフックパンチを繰り出して的確に男の顎に打ち込んだ。

途端に1人の男が崩れ落ち倒れる。

「な、なに⁉︎」

もう1人の男は予想外の出来事に動揺し、女性の手を離した。

その隙に今度は残りの男に私は近づき、間合いを詰める。

男は顔面に攻撃が来ることを察して咄嗟に顔をガードしたため、私はがら空きになったみぞおちにパンチを打ち込んだ。

もろに攻撃が入り、残りの男もその場に倒れ込む。

「さぁ、今のうちに逃げましょう! 早く!」

男たちが倒れているうちに、私は女性の手を取り走り出した。
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