人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
そして道端に立ちながら、おもむろに道ゆく人々に声を掛け出した。

「こんにちは〜! 酒場『フォルトゥナ』です。平日限定の特別クーポンを配布していまーす! お得ですからぜひどうぞー!」

私は先程ミアと作った半額クーポン券を、通行人に笑顔で声を掛けながら配布する。

ミアにも私を見本に同じようにやってみてとお願いして2人でひたすら配った。

ミアは最初驚いていたし、もともと大人しい性格のため人に声を掛けることに戸惑っていたが、途中から腹を括ったようだった。

その様子を見ながら、私も前世で初めてチラシ配りした時こんな感じだったなと懐かしく感じた。

「なになに? 特別クーポン?」

「はい! こちらを持って平日に来店されれば、飲食代が半額になりまーす!」

「半額⁉︎」

「そうです! 平日限定なので、ぜひ来てくださいねー!」

「すげぇお得すぎ! 俺にもそのクーポンってやつちょうだい!」

「はい、喜んで! どうぞー!」


私が王女らしからぬフランクさで声掛けしていると、すぐに興味を持った人々が寄ってきて、どんどんクーポンがはけていく。

やはりどこの世界も、《《半額》》という言葉に人は弱いようだ。

しかも半額クーポンを配っているということ自体が珍しいようで興味を引けている。

予定枚数はものの数十分でなくなってしまった。

これはかなりの集客を期待できるのではないだろうか。


「正直ビックリしました! あんなに人が寄って来るなんて!」

予定枚数を配り終えて『フォルトゥナ』に戻る道中、ミアが私を見ながら感嘆の声を上げる。

準備段階では一体何を作らされているのかと疑問でいっぱいだったらしいが、クーポンを求める人々の姿を見て驚いたらしい。

「これはまだ序の口よ? クーポンは種蒔きみたいなものだから。ちゃんと今夜お店に人が来てくれるといいんだけど」

「絶対来ますよ! だって配ってる時に今日行こうって話してる方が結構いましたよ。帰ったら父に仕込み多めにしてって伝えないといけないですね」

ミアの話を聞きながら、それなら期待できそうだと嬉しくなる。

エドガーさんとミアのためにお店に多くの人が来てくれたら嬉しいし、お客さんにはぜひともあの美味しい料理を堪能してほしい。

『フォルトゥナ』に着く頃にはもう夕方になっていて、2人は慌ただしく開店準備を始めた。

私はというと、ぜひとも集客状況を見届けたかったものの、王宮を抜け出して来ている身なのでさすがに夜までいるわけにはいかない。

影武者を務めてくれているライラにも負担がかかってしまう。

無念ではあるが、2人に来店されたお客さんがクーポンを持って来た時の対応方法と、あともう1つの策をレクチャーして、その場を去ることにした。
< 35 / 163 >

この作品をシェア

pagetop