人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
◇◇◇

王宮を抜け出した日から2日後。

今日はロイドが訪問してくる日だった。

いつも通りにベールを付けて顔を隠し、応接間で紅茶を飲みながら待っていると、ロイドはお茶の時間より少し遅れてやって来た。

心なしかその顔色には疲労が滲んでいるように見える。

「顔色が優れないようだけど大丈夫?」

「ええ、別に大したことではないです」

「そう? それなら良いけど」

ロイドは涼しい顔で何事もないと言うが、私はなんだか心配だった。

なぜならその顔色は、朝から晩まで働きすぎて疲弊していた前世の私にそっくりだったからだ。

 ……やっぱり王太子の側近だと忙しいわよね。公爵家の当主として領地の管理もあるのだろうし。

そんな中、3日に1回の頻度で来てもらっているのはなんだか忍びなくなってくる。

最初は面倒な監視役だと思っていたけど、今やロイドは一応連絡係という名目ではあるものの、実質は教育係みたいな感じだからだ。

「ねぇ、ロイドも忙しいのだから、こんなに頻繁にここに来てくれなくてもいいわよ? エドワード殿下への連絡も特にないもの。せめて頻度を減らすのはどうかしら?」

「……私が来るのは困りますか?」

「いいえ、そういう意味ではなくて。ただ忙しくて疲れているようだから、ここへ来る時間を削れば少しは楽になるんじゃないかと思っただけよ。ロイドから色々教えてもらうこと自体はとても楽しいわ」

「それなら今まで通りで私は問題ありません。アリシア様が気になさる必要もないです。ところで今日は何かエドワード様へのご連絡事項やご質問はありますか?」

問題ないと言い切られてしまうとそれ以上は何も言えなくなる。

ロイドももうこの話は終わりだと言わんばかりに話題を切り替えてしまった。

「……今日は特に何もないわ」

「それなら私から1つ最新の城下町情報をお教えしましょう。アリシア様が興味を持たれそうな話だと思いますよ」

今日はロイドの方から話題を提供してきてくれた。

城下町情報なのは、前回私が城下町のことを色々知りたがって質問したからだろう。

「つい先日のことなんですが、ある酒場が独特な手法で一気に注目を集めて、今城下町で大変な人気になっているんですよ」 

「えっ」

「どうやら開店してまだ1年くらいの店らしく、老舗が強い城下町で異例のことなのです。どうです? 面白いでしょう?」

ロイドの話に私は思わず目を丸くする。

もちろん話自体に驚いたわけではなく、心当たりがありすぎたからだ。

 ……それってもしかして『フォルトゥナ』のこと⁉︎ ロイドがすでに把握してるくらい話題になってるってこと⁉︎
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