人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「そのお店の名前って……?」

「『フォルトゥナ』という酒場みたいですね。なんでも半額クーポンという紙を街中で配ったそうです。それを持って平日に店に行けば飲食代が半額にしてもらえるとか」

「へ、へぇ。そうなのね」

「それだけでなく、店での飲食代が一定以上の場合は”チュウセン”というものができるそうです。箱の中に入った紙を取り出し、その紙に書いているものをプレゼントとして貰える仕組みだそうです。プレゼントは次回ビール1杯無料券など次の来店時に使えるものばかりのため、再来店を促す上手い仕掛けですね」

そう、ロイドが語ったこの”チュウセン”こそが私がエドガーさんとミアに授けたもう1つの策だった。

“チュウセン”とは、もちろん前世の日本ではお馴染みの”抽選”のことだ。

半額クーポンだけだと1回きりの来店で終わってしまうかもしれないところを、抽選で動機付けしたのだ。

抽選で当たる景品は、基本的にどれも次回来店時に使えるお得なサービス券。

それに抽選をできるのは全員ではなく、そこそこ飲み食いしてお金を落としてくれるお客さんに限るから、次回も売上が見込める。

さらに抽選をしたいお客さんが抽選ができるように注文すれば客単価が上がる。

そして何より、単純に抽選というのは遊び心があって楽しい。

こういう狙いがあって、クーポンで集客するだけでなく『フォルトゥナ』にリピーターも囲い込めるように伝えたのだった。

ロイドの話を聞く限り、どうやらエドガーさんとミアは教えた通りに上手くやっていて、その効果もちゃんと発揮され、お店は繁盛しているようだ。

 ……良かった良かった! あの美味しい料理を多くの人に知ってもらえればなと思っていたけどそれは実現できたみたいね。

想定した結果に繋がり、私は顔には出さないようにしながら心の中ではガッツポーズを決める。

自分の知識が誰かの役に立ったことも純粋に嬉しかった。


「どうやら人気が出過ぎて、酒場なのに昼営業も始めるようですよ」

「えっ? 昼営業まで……」

どうやら想定以上の結果を招いてしまっているようだ。

 ……エドガーさんとミアの2人だけで大丈夫なのかしら? 

にわかに心配になってくるが王宮を抜け出せない今の私にはどうしようもない。

実際2人は押し寄せてくるお客さんに嬉しい悲鳴を上げて、忙殺されていたわけなのだが、私がこの時それを知るすべはなかったーー。
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