人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「そんなにお礼を言われる程のことでもないわ。ただの思い付きみたいなものだったから。むしろ思った以上の反響で大変そうだけど大丈夫なの?」

「それは……正直父と2人で手一杯です」

「今は猫の手でも借りたい心境だな。来週からは新しく人を雇うことにしたんだが」

お店が繁盛して嬉しい反面、なかなかに苦労も強いられているようだ。

 ……ある意味、私の思い付きによる被害でもあるわよね。それなら……!

「ねぇ、良かったら今日の昼営業、私が手伝うのはどう? 調理は無理だけど接客ならできると思うわ」

「ええっ! シアさんが手伝ってくれるんですか⁉︎ それはとっても助かるんですけど本当にいいんですか⁉︎ ねぇ父さん?」

「ああ、さっきも言った通り、猫の手も借りたかったから店としては大助かりだが。シアさんの都合もあるだろう?」

「今日の昼営業だけなら大丈夫よ! じゃあ決まりね! ミア、さっそくこのお店の接客ルールを教えてちょうだい?」

こうして、少しでも力になれればと思い手伝いを申し出た結果、臨時アルバイトをするに至ったのだった。

 ……エドガーさんも、ミアも、それにお客さんも、私が王女だと知ったら腰抜かすくらいビックリしそうね。

私自身は完全に楽しんでやっていて、前世での居酒屋バイトの経験もあり、ミアが感激するほど即戦力として役立てている。

抽選をやっている現場をこの目で見ることができたのも収穫だ。

異世界でも何が当たるか分からないものを引くというのはワクワクするようで、半額クーポン以上にお客さんの反応が良い。

抽選したさにお金を使ってくれているようで客単価も上々のようだった。

抽選に対する反応の確認もそうだが、私にとってここで働くことは実は他にもメリットがあった。

「いや〜やっぱ最近は治安が悪化してるよな」

「確かにな。ちょうど隣国との戦争が終わったあたりからじゃないか?」

「ああ、そうだな。人攫いとかで儲けようとしているやつもいるって聞くな」

「確かに俺の知り合いの友人が攫われそうになったって言ってたわ」

ガヤガヤとした店内では昼前からビールを片手に男性客が噂話をしている。

酒場というのは得てして情報が集まる場でもある。

王宮で人質として狭い世界で生活している私はこうした噂話に飢えていて、盗み聞くのも楽しいものがあった。

慌ただしく動き回りながらも、お客さん同士の話にこっそり耳を傾ける。
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