人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「なんでもその頃に王様が倒れたらしいぞ。それで今は王太子様が代行しているそうだ」

「へぇ、そうなのか。……でも王太子様かぁ。側妃に骨抜きにされて全然仕事してないって話じゃなかったか?」

「どうせブライトウェル公爵様に尻拭いしてもらってるんだろうさ。王太子様のやることは実質裏で公爵様が動いているってのはみんな知ってるし公然の秘密みたいなもんだからな」

「公爵様も王位継承権あるだろ。俺は王太子様より公爵様に王になって欲しいな。公爵様の領地は過ごしやすいって聞くし、王都もなんとかしてくれそうだろ?」

「同意だな。女にうつつ抜かして仕事しない王太子様が王になるのは不安だからな。まぁ王太子様に言わせれば子作りも立派な仕事なんだろうが」

「まったく羨ましい限りだぜ」

 ……へぇ、エドワード殿下って政務してないんだ。しかもロイドが尻拭いしてることは一般市民までが知る事実なのね。全然知らなかったわ。

何気なく聞き耳を立てていた話に身近な人の名前が出てきて、私は思わぬことを知ることになった。

もちろん噂話だしどこまで本当かは分からないが、公然の秘密と言われるくらいに長年ロイドがエドワード殿下を支えて来たのはおそらく事実だろう。

実際私がこの国に来てからも、エドワード殿下の代理として定期的に訪問してきてくれるのはロイドだし、疲れを顔に滲ませているのも目の当たりにしている。

さらに意識的に噂話に聞き耳を立てれば、同じような話をしている人が意外と多いことにも気付いた。

どうやら王都ではもっぱらこの手の話が広がっているらしい。

王が倒れたことも、王太子が側妃に夢中なことも事実なだけに、おそらく王宮に近しい者から流れていると思われた。

そんなお客さんの話を気にしつつ、忙しく働いていると、ようやく昼のピークを過ぎて少し店内も落ち着いてきた。

久しぶりにこんなに体を動かしたなぁと私が一息ついていたそんな時。

来店したお客さんをミアが出迎えに入口へ向かったと同時に、いきなり店内がザワリと大きく騒めく。

ミアもあんぐり口を開けて入口で固まってしまっているようだ。

何事かと目を凝らせば、店先に明らかにこの酒場とは場違いな、高貴な雰囲気を身に纏った美貌の男性が佇んでいた。

 ……え、うそ。何で?

ミアに続き、私もその姿を視界に入れて固まってしまう。

ただおそらく固まってしまった理由は他の人とは違う。

その男性の美貌に驚いて見惚れてしまったからではない。

私がそうなってしまったのは、その男性がここにはいるはずのない私のよく知る人ーーロイドだったからだ。
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