人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「……い、いらっしゃいませ。何名様ですか?」

「ひとりだ。周囲に護衛が2人いるが彼らは席には座らない」

「あ、はい、分かりました……! それではご案内いたします……!」

作り物のようなその美しい顔に驚いていたミアだったが、ハッと意識を取り戻すと、上擦った声で接客を再開しロイドを席に案内する。

『フォルトゥナ』は平民向けの酒場だから、貴族であることが一目で分かるロイドはかなりこの場から浮いていた。

さっきまで王宮関連の噂話をしていたお客さん達も名前は知っていても顔は知らなかったのだろう。

みんなロイドが貴族だとは認識していても、あのブライトウェル公爵本人だとは気づいていないようだった。

 ……なんでロイドがここに? 私が王宮から抜け出していることがバレたわけではないわよね……?

ロイドが誰かを探しているような素振りはなく、普通に料理を注文して食事を始め出した。

何が目的なのかは不明だが、どうやら私のことがバレたわけではないのは確かだった。

私の素顔をロイドは知らないのだから、ここにいるのを見られても問題はない。

ただ、なんとなく心情的にビクビクしてしまい、私はミアにロイドの接客は頼み、直接接しないように避けた。

遠目から様子だけ見ていると、やはりあの恐ろしいくらいの美貌は目を惹くようで、店中の人々が彼に注目しているのが分かる。

女性客はポッと頬を赤らめうっとりするような顔をしている。

だが、誰一人として直接声を掛けようとする者はいない。

きっと醸し出す雰囲気から彼が貴族に違いないと誰しもが勘づいているからだろう。

貴族と関わって碌なことはないから、皆ひっそりと眺めているだけなのだ。

ロイドはというと、背後に護衛を従えながら静かにひとりで食事を済ませ、最後に抽選をしてお店を出て行った。

ロイドがいなくなった瞬間、張り詰めていた店内の空気がふっと緩くなる。

誰も彼もが、あの只者ではない雰囲気の美貌の貴族の存在に無意識に緊張していたようだった。

「び、びっくりしましたね……。あれほど整ったお顔の男性を見たのは初めてで驚きました。しかも明らかに貴族の方ですし、なんでうちのお店に……」

「本当になんでここに来たのかしら?」

接客する人として一番矢面に立たされたミアは気疲れからぐったりした様子だ。

本当はあの美貌に耐性のある私が対応すべきだったんだろうけど、万が一バレたらと思うと怖くて無理だった。

悪いことしたなぁと私は心の中でミアに謝罪する。
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