人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「普通に食事して帰られただけでしたね……」

疑問が滲むミアのつぶやきには完全に同意だ。

ロイドの謎の行動には首を傾げるばかりだが、無駄なことを嫌いそうなロイドのことだ、彼なりに何か理由があるのだろう。

ここにいた事実を知られるわけにはいかないから、その理由をアリシアとして尋ねるわけにもいかない。

だから私が知る機会は訪れないと思う。

ロイドの来店によって騒然としていた店内だったが、やがていつも通りの落ち着きを取り戻し、しばらくして昼営業が終了の時間を迎えた。

「いやはや、今日は大変だったな。厨房からでもあの騒然とした雰囲気は感じられたよ」

営業を終えた店内で、エドガーさんとミア、私は遅めの昼食をとっている。

もちろんエドガーさんお手製の賄いメシだ。

様々な料理がワンプレートに盛られたお得な一品に私の心が弾むのは言うまでもない。

「大変だったけど、やっぱりシアさんが手伝ってくださったおかげでいつもより余裕があって助かりました! 本当にありがとうございました!」

「俺からも礼を言わせてくれ。シアさん本当にありがとうな」

蔑みの目や嘲笑う目を向けられることがほとんどの私は、こんな純粋な感謝の眼差しで2人から見つめられてくすぐったくなる。

温かな気持ちで絶品賄いメシを頬張っていると、そんな私にエドガーさんが伺うように話しかけてきた。

「なぁシアさん、良かったらまた時間がある時に手伝ってくれないかい? 夜営業は人を雇うが昼は当分このままの予定なんだよ。ミアと2人でもギリギリ回せるからな。もちろんシアさんの都合もあるだろうから無理にとは言わないが……」

その申し出に少し考えてみる。

絶品賄いメシだけでなくお給料もちゃんとくれるらしいし、私の都合の良い時だけで構わないという。

なんとなく2人は私が訳アリというのは察している節があり、かなり不定期でしかも事前にいつ来れるか伝えられない状況にも関わらず、それでもぜひにと言ってくれるのだ。

 ……すごく好条件よね。色々な情報も得られるし、城下町に来た時に知り合いがいるのも心強いものね。

「ええ、分かったわ。本当にたまにという状況でも良いのならお手伝いさせて頂くわ! ただ、長くても1年しか難しいのだけど……それでもいいかしら?」

「もちろんだ! ありがとう」

「シアさんと一緒に働けるなんて嬉しいです! 休憩時間などで私にも護身術を教えてくださいね」

こうして正式な婚姻までの人質期間の間、私はアルバイト先を確保したのだった。
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