人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる

08. 町娘シアと公爵

『フォルトゥナ』での臨時アルバイトを終えた私は、王宮へ戻るまでの残りの時間を城下町散策に費やすことにし、また外へ繰り出す。

しかしふと空を見上げると、朝の天気から一転し、黒い雲が多くなり、なんだかどんよりしていて雨が降ってきそうだった。

残念ながら今日の天候は街歩きにはあまりふさわしくないようだ。

いつもより人通りも少ないように感じる。

 ……今日は大人しくもう帰った方がいいかもしれないわね。

雨の日は乗り合い馬車が混み合うと聞いたこともあったので、私は予定を変更し、本格的に降り出す前に王宮へ戻ることに決めた。

足早にメインストリートに向かって歩いていると、ついにポツリポツリと小雨が降り出して来た。

急いでいた私はメインストリートに連なる小道へ駆け込む。

だが、その道を選んだのが失敗だった。

大通りのすぐ脇の道だというのに薄暗く人気がないひっそりとしたその道をしばらく進んだところで、数人の男に囲まれてしまったのだ。

「ほお、上玉じゃないか」
「うひょ〜いい女だなぁ。高く売れそう!」
「おい、売る前に俺に味見させろよ」
「バカ言うな。商品には手を出すんじゃない」
「ここ最近で一番上玉じゃん。また儲かるな」

口々に下品な言葉を口走る男たちを前にして、なす術もない。

護身術に心得のある私もさすがに2人以上となると手に余るのだ。

 ……最悪だわ。まさかメインストリートのすぐ近くでこんな事態になるなんて。治安が悪化しているのは間違いないわね。それにもしかして、この人たち、例の人攫いなんじゃないかしら?

『フォルトゥナ』のお客さんが噂話をしていたのを瞬時に思い出した。

となると、私は攫われて売られてしまうこととなるのだろう。

 ……まずいわね。私がいなくなれば下手したら国際問題に発展してしまうわ。

そう、私は一応リズベルト王国の王女で、この国には人質として暮らしているのだ。

人質がいなくなれば逃げたと言ってユルラシア王国はリズベルト王国を非難するだろうし、一方のリズベルト王国は言われのない非難に腹を立てるだろう。

そうなれば同盟が破棄され、再び戦争が始まる事態にもなりかねないのだ。

いくら実態として私が冷遇されていて、いてもいなくても構わないような王女だとしてもだ。
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