人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
 ……どうしようかしら。彼らの目的が金銭なんだとしたら、身分を明かしてお金で解決してしまう? 

ジリジリと近づいてくる男たちから遠ざかるように一歩一歩後退する。

そんな些細な抵抗は意味をなさず、すぐに背中が壁に触れ、これ以上退がれなくなってしまった。

内心焦りながら必死に対処方法について考えを巡らせていたその時だ。

「そこで何をやっている」

大通りの方からやって来る人影が見え、咎めるような厳しい男性の声が聞こえてきた。

それに「ちっ」と舌打ちをして怯んだのは私を囲んでいた男たちだ。

5人いた男たちは、瞬時に3人が現れた人影の方へ向かい、残り2人が私のもとに残る。

すぐに向こうの方からはドサッと人が倒れる音が聞こえてきて、拳を交えたのが分かった。

 ……これはチャンスね。2人なら私でもなんとかなるわ。

目の前にいる男2人は見張り役みたいなものなのだろう。

私に警戒するほどのことはなく、完全に意識を向こうに持って行かれているのを利用し、私は素早く動いて1人のみぞおちに拳を打ち込んだ。

「ぐぅっ……」
「え、なんだ⁉︎ どうした⁉︎」

1人の男がその場に崩れ落ち、突然のことにもう片方の男が狼狽えている。

すかさずその男のみぞおちにもキックをお見舞いしたところ、白目を剥いて倒れてしまった。

「大丈夫か?」

ちょうどその時、さっきの人影の男性がこちらへと近づいてきた。

顔を上げてその姿を目にして私は驚く。

なぜならその男性が私の知る人物……ロイドだったからだ。

 ……ええっ、またロイド⁉︎ どうしてここに?

思わぬ場所で今日2度目の遭遇だ。

目を丸くしてその場に立ち尽くす私に、そんなことを知る由もないロイドが構わず話しかけてきた。

「……この2人はお前がやったのか?」

その目線は私の目の前に倒れる男たちに向けられていた。

一見戦うことなんてできそうにもない容姿をしている私の所業だと信じられないのだろう。

「ええ、私がやりました。護身術の心得があるので。たださすがに男5人の相手は無理だったので助かりました。助けて頂きありがとうございました」

私は頭を下げて、丁寧な口調でロイドにお礼を述べる。

今の私はただの町娘、そしてロイドは公爵なのだから、そのように振る舞わなければならない。

それに危ないところを助けてもらったのは事実だったので感謝の気持ちは心からのものだ。

「やつらは何かお前に言っていたか?」

「売れば金になると話していたので、おそらく人攫いなのではないかと思います」

「やはりな。報告に上がっていた人相に当てはまる。おい、こいつらも縛り上げて連れて行け」

「「はっ!」」
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