人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
ロイドは他の男たちをロープで拘束していた護衛の騎士に命令を告げる。

『フォルトゥナ』に来た時に背後に控えていた者たちだ。

おそらく公爵家付きの騎士なのだろう。

気付けば小雨はいつの間にか止んでいて、空には少し晴れ間が覗きつつあった。

雨に降られずに済んだこと、そして何より攫われずに済んだことに大きな安堵が込み上げてくる。

 ……でも今日はもうこのまま大人しく帰ろう。こんな出来事があったばっかりだもの。

私がこの場を辞すためにロイドに許可を得ようと彼を見上げたところ、ロイドも私を見ていたようで目がばっちり合った。

いつもソファーに座った状態で向かい合っているし、身分的にロイドが膝を折るため、こんなふうにロイドから見下ろされるのは初めてだった。

頭一つ分以上私より背が高く、ロイドってこんなに長身だったんだなぁと今更ながらに気付く。

「……お前、フォルトゥナの店員か?」

「えっ?」

「昼に行ったんだが、あの場にいただろう?」

思わぬ発言にビックリさせられる。

ミアに任せていたので接客を直接していないのに、私が店内にいたことを覚えていたらしい。

驚異の記憶力だ。

ロイドには私が王女アリシアだと気付かれなければいいだけで、フォルトゥナの店員だとバレる分には問題はない。

だから私は素直にそれを肯定する。

「はい。おっしゃる通りです。先程はご来店頂きありがとうございました」

「やはりな。それならこの辺りのことも詳しいだろうから聞きたいのだが、この辺りで薬を売っている店を知っているか?」

「薬屋、ですか?」

「ああ。なんでも効果が非常に高い薬を取り扱っているそうなんだが」

そう聞かれても、私に心当たりがあるわけがなかった。

なにしろ城下町のことは、他でもないロイド自身に教えてもらった身なのだ。

ロイドが知らないことを私が知っているはずがないのだが、ロイドは私をこの辺りの町娘だと思っているから聞いているのだ。

知らないと言ってしまうのは簡単だった。

だが、ふとロイドがどんな薬を探しているのかに興味を引かれた。

「なんのお薬をお探しなんですか?」

「疲労回復薬だ。アドレリンという薬草を調合したものがこの辺りで手に入ると聞いた」

「……アドレリン? アドレリンは貴重なわりに瞬間的な効果しかないから微妙よね。疲労回復薬ならレウテックスを調合したものの方が効果も持続性も高いはずだけど。調合も簡単だし……」

薬草の名前を聞いて、思わずポロリとつぶやいてしまい、瞬時に「しまった!」と感じる。
< 46 / 163 >

この作品をシェア

pagetop