人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
聞き漏らしてくれていないかと期待してチラリとロイドを見やれば、その願いは虚しく、彼は不可解そうに私を見ていた。

「……お前、薬の心得があるのか?」

「ええっと、その……」

「調合されている薬草の名前を知っていたじゃないか。アドレリンなんて珍しい薬草なのに。しかもそれよりも効能がある薬草まで知っているようだし」

「その、以前知り合いから教えてもらったので少し知っているだけです」

「調合もできるのだろう? レウテックスなら簡単と漏らしていたしな」

鋭い目で見据えられ私は言葉に(きゅう)する。

そう、実は私は薬草に詳しく、ある程度の薬の調合もすることができる。

それこそ自国にいる時は、医者にかかることもなく自分で薬を煎じて対処してきた。

この知識も王宮を抜け出して知り合った薬師のお婆さんに弟子入りさせてもらっていたからだ。

人里離れたところに住んでいたお婆さんは私を孫のように可愛がってくれて、色々教えてくれたのだ。

ただ、薬師の知識は代々引き継がれているようなもので、一般の町娘が知るようなものではない。

今の私が知っているというのは明らかに不自然だった。

「あの、たとえ調合できたとしても、とても公爵様にご提供できるものでは……」

「へぇ、私が公爵だと知っているのか?」

「あっ……」

そういえば『フォルトゥナ』でも、ロイドを見てみんな貴族だとは分かっても誰かまでは知らない様子だったことを思い出す。

だとしたら、公爵だと断定してしまったのは私の失言だろう。

「まあ、色々聞きたいことはあるが、この際見逃してやろう。お前から悪意は感じないからな。その代わり急ぎで薬を調合してくれないか? 金は出す」

どうやらどうしても効果の高い疲労回復薬が必要なようだ。

しかも誰かに買って来させるのではなく、ロイド自らが探しているとなると、何かしらの事情があるのだろう。

 ……調合自体はそんなに大変でもないし今回だけ応えた方がいいわよね。さっき助けてもらった恩もあるし。

「分かりました。それでは先程助けて頂いたのでその御礼にさせてください。お金はいりません。お急ぎとのことですが10日間頂けますか?」

「10日か。まあ手に入るならいいだろう。分かった」

「お渡しはどのようにいたしますか?」

「では10日後の昼に『フォルトゥナ』に私が取りに伺う。それでいいか?」

「承知いたしました」

「ところでお前、名はなんという?」

「……シアと申します、公爵様」

「ではシア、頼んだ」

捕まえた男たちの拘束もちょうど済んだらしく、そう言い残すとロイドはそのまま騎士とともに去って行った。

私もメインストリートの乗り合い馬車へと向かう。

帰りの馬車に揺られながら、2回目の王宮抜け出しは本当に色々あったなと、今日の出来事を振り返る。

臨時のアルバイト、ロイドの来店、人攫いとの遭遇、そしてロイドとの薬の調合の約束……。

 ……次の抜け出しは10日後に決定してしまったわね。戻ったらまたライラに協力をお願いしないといけないわ。あと、久しぶりに調合の準備もしなくてわね。

大人しく部屋に籠っていると思われている私の人質生活は、思いの外忙しく、充実したものになりつつあった。
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