人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「それでだな、同盟の証として、王族同士で婚姻を結ぶことになったのだ」

「左様ですか」

完全なる政略結婚だが、こういうことは王族ならばよくあることだ。

国の和平のために顔も知らない相手に嫁ぐなんてことは一般的であり、そのことに私もなんの不思議もない。

だが、私が不思議なのはそれがなぜ私なのかということだった。


「……エレーナではないのですか?」

私が小さな声で問うと、父は冷たい目で私を見据え、ふんと鼻を鳴らす。


「婚姻と言っても1年の婚約期間は人質みたいなものだ。敗戦国で尚且つ小国の我が国の姫がどのような扱いになるかも分からぬ。そんなところに可愛いエレーナを嫁がせるわけがないだろう? しかもあの国の王太子にはすでに側妃がいて大層寵愛していると聞く。婚姻を結んだところで妻とはなるが形だけのこと。冷遇されるのは目に見えている」

 ……ああ、なるほど。《《だから私》》というわけね。

その説明で心底納得がいった。

つまりは私の妹で、第二王女であるエレーナがそんな扱いをされるのは許し難いが、私なら良いという判断なのだろう。

実態はどうあれ、私もリズベルト王国の王女であることには変わりがないのだから。


「お前をこれほど有効に使える場面が巡ってくるとは思わなかった。王女として残しておいた甲斐があったというものだ。分かっているとは思うが、お前に拒否権はない。駒として従うように」

「……承知いたしました」

「分かればよい。半月後に人質として発てるように準備を進めよ」

「……仰せの通りにいたします」


逆らう気もなく、私は静かに御前で礼をしてその場を立ち去る。

白いベールで顔を隠しながら、自室のある離れへ向かって王宮の廊下を歩いていると、右手に見えた庭で王妃である義母と妹のエレーナがお茶を楽しんでいる様子が視界に入った。

「あら? お姉様?」

気付かれないよう気配を殺しながら通り過ぎようとしたものの、その努力も虚しく、あっさりと呼び止められてしまう。

仕方なく私は庭にいる2人に近寄り、まるで臣下のように礼儀正しく礼をする。

「ごきげんよう。お姉様が王宮の本殿にいるなんて珍しいわね。もしかしてお父様に呼び出されたのかしら? ねぇ、お母様?」

「そうね。陛下が例の件、そろそろ告げるっておっしゃってたわね」

どうやらこの2人は婚姻の当事者である私より先に父から話を聞いているようだ。

エレーナはさも心優しく同情するような、それでいていい気味だと嘲るような目で私を見てきた。
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