人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
◇◇◇

翌日のお茶の時間、私は前日に先触れを出していた通り、エドワード様のもとを訪れる。

エドワード様のもとというのは、すなわち側妃のいる離宮だ。

通された部屋では、当たり前のように側妃のマティルデ様がエドワード様の横にいてしなだれかかっている。

「それでロイド、話とは何だ? 私はマティルデと過ごすのに忙しいのだ。手短に済ませてくれ」

まるでシッシッと追い払うような言い草だが、こんなことはいつものことだ。

次の言葉を口にするとまた嫌な顔をされるだろうと思いながらも私は提言する。

「……政務のことなので、マティルデ様には席を外して頂きたいのですが」

「構わぬではないか。マティルデは私の寵妃なのだから何を聞かれても問題ない」

「そうですわ。私のことは気になさらないで? 私とエドワード様は一心同体なのですから常にお側にいたいの」

さらに自分の体をエドワード様に押し付けるマティルデ様に、エドワード様は鼻の下を伸ばしてご満悦な様子だ。

 ……まったく、エドワード様はこの女の何が良いのだろうか。さっぱり分からない。

この側妃はまるでエドワード様だけを愛していると言わんばかりの態度なのだが、エドワード様が近くにいない時はそうではない。

なにしろ私にも色目を使ってくるのだから。

その上、自分の立場も弁えず、国の状況にも無関心で、王太子の寵妃ということだけを盾にただ贅沢な暮らしを享受している女なのだ。

欲に塗れた女は私の一番嫌いなタイプだ。

目の前で体を寄せ合う2人に冷めた目を向けてしまうのは止めようがなかった。

「……申し訳ありませんが、内密な話もありますので。どうかご理解ください」

「内密な話だとしても私は構わないが」

「……耳にされたマルティデ様がお辛い思いをされることになるかもしれませんよ?」

内密な話だと述べているにも関わらず渋るエドワード様に、私はあえてマルティデ様のためだと強調する。

それでようやく「それなら仕方ない」と同意を得られ、促されてマルティデ様が退室していく。

政務に関する内密な話だと言えばその機密性は言わずもがなだというのに、ここまで懇切丁寧に伝えなければ話も始められない現実に頭を抱えたくなった。

「それで、内密な話とは何だ?」

「実は反乱の動きがあります。ノランド辺境伯が王家に反感を持っていてどうやら人集めをしているようです。火種が燻り出していますのですぐに対処した方が良いかと」

まずは今回一番重要報告事項であった件を私は話し出す。

この件は王族であるエドワード様自らに動いて頂かないとどうしようもないものだった。
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