人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「は? 反乱の予兆だと? バカバカしい。そんなのは放っておけ。どうせ何も行動になど移すはずがない」

「ですが、ノランド辺境伯の人望の厚さは十分に脅威となります。先の戦の功労に対する王家の労いに対する不満が元のようですので、今からでもエドワード様がきちんと報いれば鎮火するのではないかと思います」

「ふんっ。そんな面倒なことを私はするつもりはない。マティルデとの時間が減ってしまうではないか。放っておけば良い」

「しかし……」

「くどいぞ。この話はこれで終わりだ。分かったな?」

「……承知しました」

何度も食い下がりながら深刻さを説明するも、結局エドワード様は「放っておけ」の一点張り。

最後まで意見を変えず、挙げ句の果てには側妃との時間の方が大切だと言い出す始末だ。

 ……どうしたものか。本当に頭が痛いな。


話を打ち切られてしまったからにはこれ以上この件を続けるわけにはいかず、続いて私は王都の治安悪化について報告する。

しかしこれも「放っておけ」の一言だ。

エドワード様の考えでは、放っておけばそのうちなんとかなるらしい。

今までもそうだっただろう?と言うが、それは裏で私たちが処理してきたからであって決して勝手に解決しているわけではなかった。

「ああ、そうだ、城下町で思い出した。そういえば私からロイドに頼みたいことがあった」

王都の話の流れでエドワード様は何かを思い出したらしく、おもむろに口を開く。

“頼みたいこと”という言葉を耳が拾い、嫌な予感に顔を顰めたくなった。

「実は人伝てに聞いたのだが、城下町に腕の良い平民の薬師がいるらしくてな。そこでアドレリンという貴重な薬草を煎じた疲労回復薬を手に入れてきてくれ。よく効くらしい」

「疲労回復薬、ですか? 何のためにお使いになるのです?」

「ふっ、もちろんマティルデとの子作りに今以上にもっと励むためだ。その疲労回復薬があれば無限に頑張れるらしいからな」

 ……ああ、本格的に頭が痛くなってきた。

国のことには無関心で全く耳を貸さないというのに、側妃とのことに関してだけは向上心があるらしい。

頼んだからなと念押しして命令され、呆れ返って何も言えない私は頷くしかなかった。

これ以上ここでエドワード様と話しているより執務室で仕事を進めた方がよっぽど効率的だと感じた私は、最後に王太子承認が必要な陳述書を差し出す。

本来なら説明してサインを貰うべきなのだが、(はな)から説明など聞く気のないエドワード様の様子を見て、ただサインだけを貰うことにした。

サインすら文句を言いながら手を動かすエドワード様の側に黙って控え、終わり次第、私は早々とその場を去って執務室へと戻ったのだった。
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