人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
初めて訪れたその店は、いかにも平民向けの大衆酒場という様相だった。

私の護衛に付いていた騎士は「こんな店にロイド様が行くのですか⁉︎」と最初驚いていたが、今は黙って私の背後に控え任務についている。

明らかに貴族だと分かる私に動揺した店員に案内されテーブルに付き、私は店のおすすめだというスープとパンを注文した。

待っている間に周囲を観察してみると、昼のピークを過ぎ落ち着いてきた頃だったからか、広くはない店内に客は半分くらいだ。

この時間帯にこれだけいれば客入りは良い方だろう。

客はやはり平民ばかりのようで、皆が私の存在に緊張をまとっているのを感じた。

貴族とは分かっても私が誰かを認識する者はいないようだ。

そんな中、私の目はふと1人の女に釘付けになった。

なぜならその女はこの中において明らかに異質だったからだ。

どうやら店員の1人のようで、ハニーブロンドの髪に青い瞳の整った顔立ちの女だったのだが、私が気になったのはその容姿の良さではない。

平民のはずなのに、やけにキレイな肌をしており、髪も手入れされたような艶があるし、姿勢も良く、わざと崩した所作をして周りに馴染ませているように見えた。

 ……訳アリ貴族か? 明らかに普通の平民ではないだろうな。

そんな感想を持ったが、その時はただそれだけで、注文していた料理が運ばれてくるとすぐに意識は逸れた。

提供されたスープは思ったよりも味が良く、正直期待以上だった。

平民の店も捨てたものじゃないなと思いつつ食事を終え、例の”チュウセン”を体験する。

当たったのは「次回ビール1杯無料券」というものだった。

 ……なるほど、この券を使うためにまた来店するという仕組みか。固定客になりやすい仕掛けだな。

会計をしながら私は店員の女に尋ねてみる。

「この”チュウセン”や”半額クーポン”という仕組みはお前が考えたのか?」

「い、いえ! と、とんでもありません……! これはある方が助言してくださって!」

「ある方?」

「えっと、その、今日も店員として手伝ってくださってる方です!」

女がチラリと視線を向ける先を追うと、先程の訳アリ貴族だと思われる女だった。

どうやら彼女が発案者のようだ。

このような策が思い付くとはなかなか聡明な女なのだろう。
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