人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「ところで、城下町でよく効く薬を売っている店を知らないか? 腕の良い平民の薬師だと聞いたのだか」

「も、申し訳ありません……! 私は特に心当たりがございません! お力になれず誠に申し訳ありません!」

何か薬の件も情報を得られないかと最後に尋ねてみたのだが、残念ながら空振りだった。

土下座しそうな勢いで謝罪されたため、私はさっさと会計を済ませて店を出た。

有力な情報はなかったが、思った以上に食事は美味かったからアリシア様に話すネタにはなりそうだ。

その後は馴染みの店に顔を出し情報収集をしたのだが、思わしいものは得られなかった。

薬屋自体はいくつかあったので訪れてみるも、エドワード様が言っていたアドレリンという薬草を煎じた疲労回復薬はないのだ。

アドレリンという薬草すら知らない薬師も多い有り様だった。

 ……エドワード様は一体誰から聞いたんだ? ガセ情報ではないだろうか。

空は分厚い雲に覆われ天候も悪くなってきており、もう王宮へ戻ろうかと半ば諦めていた頃、私は何気なく大通りから外れた小道に視線を向けた。

そこは城下町に到着した時にガラの悪い輩がいて気になった場所だった。

すると、その道の奥の方で女が数人の男に囲まれているのが目に飛び込んできた。

その様子に陳述書の内容を思い出す。

城下町で多発している人攫いの状況に酷似しているように感じたのだ。

「そこで何をやっている」

小道に足を向け男たちに向かって声を投げかければ、5人いる男のうち3人がこちらへ勢い良く突っ込んでくる。

私にも武術の心得があるし、こちらには騎士もいたので制圧は余裕だった。

手早く片付け男たちの確保を騎士に任せると、私は女を囲んでいる残りの男2人の方へ向かった。

「大丈夫か?」

女の身が危ないのではと声をかけ近寄ってみると、すでに男2人は地面にのされていて、女が1人で佇んでいた。

思わぬ事態に女を凝視してしまったのだが、同時にその女が先程酒場にいたあの訳アリ貴族だと思われる女であることに気付いた。

「……この2人はお前がやったのか?」
 
「ええ、私がやりました。護身術の心得があるので。たださすがに男5人の相手は無理だったので助かりました。助けて頂きありがとうございました」

アッサリと自分がやったと述べる女にこの事態の事情聴取をすると、やはり例の人攫いであったことが分かった。

男たちの人相をよく見れば目撃情報にあったものとも合致する。

護衛の騎士に人攫い犯である男たちの処理を命じ、私は再びまじまじと女に視線を向ける。


「……お前、フォルトゥナの店員か?」

「えっ?」

「昼に行ったんだが、あの場にいただろう?」

「はい。おっしゃる通りです。先程はご来店頂きありがとうございました」

そう問いかけ念のため確認すれば、女はそれを認めた。

やはりあの時目にした女で間違いなかった。
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