人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる

11. 疲労回復薬作り

ロイドへの疲労回復薬の受け渡しが明日に迫った日の午前中、私は王宮の本殿がある中庭を侍女と護衛を引き連れて散策していた。

普段は自分に与えられた離宮に籠っているため、本殿に来るのはかなり稀なことだ。

本殿には王族の居住スペースのほか、謁見の間や執務室、ダンスホールなど貴族の家臣が出入りする場所も多い。

そのため中庭を歩いていても人とすれ違う機会があり、その度にベールで顔を覆った私の姿に皆が振り返るのが分かった。

自国でも遠目からジロジロ見られ慣れているため、不躾な視線をものともせず私はお目当てのモノを探すことに注力していた。

探しているのは、ずばり薬草のレウテックスだ。

ロイドから依頼を受け、すぐに自国から持って来た調合道具は準備したのだが、薬草はそういうわけにもいかない。

やはり新鮮なものを使うのが一番なため、受け渡しの直前に採取して調合する必要があるのだ。

そしてその肝心の薬草の採取をどうするかと考えた時に、私はこの国に到着した日のことを思い出した。

馬車を降りて離宮までアランに案内された際、この中庭を通ったのだが、そこでレウテックスを私は目にしていたのだ。

そこでこうして今日この中庭に来たというわけだった。

 ……確かこのあたりだったはずよね。どこかしら? あ! あった!

キョロキョロと周囲を見回していた私の視界に、地面に生い茂っているレウテックスが飛び込んできた。

日当たりが悪く湿った場所を好むレウテックスは、庭や畑、道端などあらゆる場所に分布している。

一見雑草にしか見えないため、誰も気に留めないが実は優秀な薬草なのだ。

アドレリンが貴重な薬草なのに対して、レウテックスは割とどこでも手に入るという点においても重宝する。

私がいつもの調子で薬草を採取しようとその場にしゃがみ込むと、周囲にいたライラ以外の侍女と護衛がギョッしたように目を剥いた。

「ア、アリシア王女殿下⁉︎ 何をなさっているのですか……⁉︎ ご体調が優れないのですか⁉︎」

慌てたように近寄って来られ、逆に私の方がビックリさせられてしまった。

だが、よく考えれば私が薬草採取をするのは自国でもいつも王宮を抜け出した時、つまりシアの姿の時だった。

確かに王女であるアリシアが自ら薬草採取をするのはおかしいことだろう。
< 58 / 163 >

この作品をシェア

pagetop