人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
 ……すっかり忘れていたわ。じゃあ私の代わりに侍女か護衛に採取をお願いしなくちゃね。

私はライラに目線で合図をしながら、ライラだけでなく他の人にも向かって声を掛ける。

「驚かせてごめんなさいね。体調は大丈夫よ。申し訳ないのだけど、ここにあるこの雑草を採取してくれないかしら? その、ちょっと研究したいことがあるの」

これが薬草であることは黙っていることにした。

薬草を摘んで調合していることがバレると、なぜそんなことができるのかと追求されかねない。

そうなると芋づる式に王宮から抜け出していた過去が明るみになってしまいそうだ。

私は本で読んで雑草に興味があるから研究してみたくて……と苦し紛れな言い訳を述べてみんなに手伝ってもらう。

最初は意味が分からないという表情を浮かべていたみんなだったが、ライラが率先して動き出したのを見て、次第に真似をするようにそれに続いた。

 ……さすがライラ! 私の意図を汲み取ってくれたのね。

長年の付き合いであるライラには、調合道具を準備し出した動向などから、この雑草が薬草だと見当が付いていたのだろう。

阿吽の呼吸で動いてもらえる存在がいるというのは実に心強いものだ。

自分の手は動かさず、周囲の者に採取してもらい、その様子を側で見ていた私だったが、しばらくした頃ふいに背後から声を掛けられた。

「あら? もしかしてアリシア様ではございませんこと?」

これまで遠目に私を見ている人はいても、直接声をかけてくる人はいなかった。

なにしろ私は一応王女で、この国のほぼ全員より身分が高いため、そう簡単に声をかけられる相手ではない。

それなのに珍しいなと思いながら、女性の声がした方を振り返った。

そこには私の倍以上じゃないかと思われる大勢の侍女と護衛を引き連れた女性が佇んでいた。

昼間だというのに露出が多い派手なドレスを着た、妖艶な雰囲気を醸し出す美女だ。

初めて会う女性だったが、相手の方は私のことを認識しているようだった。

貴族令嬢なのだろうが、王宮勤めの父親に帯同してきたにしては取り巻きが多すぎる。

 ……誰かしら? 王宮でこんなに使用人を引き連れていても不自然ではない立場の人といえば……。ん? もしかして?
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