人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
なんとなく相手が誰か思い当たったと同じタイミングで、女性が再び口を開いた。

「初めてお目にかかりますわね。 私はマティルデ・タンゼルと申しますわ。あちらにある離宮にお部屋を頂いておりますのよ」

やはり、というのが感想だった。

彼女はエドワード殿下が愛してやまないという側妃だ。

離宮に部屋を賜っているのは、私と側妃だけなので今の一言でそれは確定することができる。

 ……この国に来てもう約3ヶ月経つけれど会うのは初めてね。側妃としか認識していなかったから名前も知らなかったわ。

興味関心もなく、意識も向けていなかったこともあり私は驚くほど彼女について無知だったが、確か2年前にエドワード様に見初められて側妃になった子爵令嬢だったはずだと思い出した。

王太子エドワード様の婚約者と側妃という立場の私たちだが、私は隣国の王女なので身分は私の方が上だ。

「初めまして。私のことはご存知のようだけど、一応名乗っておくわね。リズベルト王国王女のアリシア・リズベルトよ」

貴族は自分の身分に適した振る舞いが求められる。

そのため、私は彼女に(へりくだ)ることなく、いつも通りの態度と口調で言葉を返した。

だが、なんとなくその場の空気がピリッとしたのを肌で感じる。

マティルデ様側の取り巻きが敵意を剥き出しにした目でこちらを見ているのが分かった。

 ……まぁエドワード殿下の寵愛を競い合う間柄だったら敵対するのも分かるけど、私は初めからそのつもりないのよね。寵愛は独り占めしてくれて構わないのだけど。

とはいえ、そんな私の内心はきっと伝わっていないのだろう。

マティルデ様の立場を脅かすかもしれない憎き相手として捉えられているようだ。

「離宮に引き籠って全然外に出てこられないと伺っていましたのよ。中庭でお見かけするなんて予想外でしたわ」

「ええ。引き籠っているのは苦にならないから好んでそうしているの」

「あら? そうなんですの? でもやっぱり引き籠りすぎてアリシア様はお心を蝕まれていらっしゃるのでしょう? そうでなければこんなところで土遊びなんてされないでしょうから」

言葉遣いは丁寧だが、明らかにバカにした響きがして、彼女が私を嘲笑っているのがよく分かった。

扇子(センス)で口元を隠し、クスクスと笑っているのが嫌味ったらしい。
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