人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
ただ、こんなふうに言われても私には正直何のダメージもなかった。

幸か不幸か、こんな蔑みは妹のエレーナで慣れている。

嫌味を言われる耐性があり、これくらい可愛いものだと思えてくる始末だった。

しかし彼女の滑らかな口は勢いづいてきたようにさらに回り出す。

「私、とても心配しておりますのよ? 隣国から来られて離宮にお一人でお可哀想だと思っておりますの。でも離宮に引き籠っているのは私も同じかもしれませんわ。私も外に出てこうして本殿の方に来たのは実は久しぶりなんですのよ」

「そうなのね。だから今日まで会う機会がなかったのかもしれないわね」

「ええ、そうですわね。なにしろ私の離宮にはエドワード様が四六時中いらっしゃるんですもの。片時も離してくださらないから、外に出ることもままならなくて。今日はこのほんのひと時だけエドワード様がご用事があって久々に外に出れたんですけど。困ったお方だと思いませんこと?」

手を頬に当てワザとらしく困ったわポーズをする彼女だが、要はただの自慢話だ。

いかにエドワード殿下から愛されているか、私の入る隙がないかを誇示したいのだろう。

 ……そんなことより四六時中側妃のところにいるって政務はどうなっているのかしら? そっちの方が気になるわ。

その時ふと『フォルトゥナ』で働いている時にお客さんが言っていた言葉が脳裏に蘇る。


ーー「側妃に骨抜きにされて全然仕事してないって話じゃなかったか?」

ーー「どうせブライトウェル公爵様に尻拭いしてもらってるんだろうさ。王太子様のやることは実質裏で公爵様が動いているってのはみんな知ってるし公然の秘密みたいなもんだからな」


 ……どうやら全然仕事していないっていう噂話は結構本当みたいね。この国、大丈夫なの?

押し黙って頭の中でこんなことを考え、勝手に国の未来を憂いていると、その様子を見て私がショックを受けていると誤解したらしいマティルデ様はご満悦な笑みを浮かべた。

自分だけが寵愛を授かっていることで私より優位に立てたと感じていて、優越感に浸っているのが丸わかりだ。

 ……どの世界にもこういうマウンティングが好きな人っているのね。

前世でも女性が集う場ではよく目にした光景だった。

笑顔を浮かべて会話しているのに、腹のうちでは常に相手と比較し上位にいようとする、そんな人達が恐ろしくて極力関わらないようにしたものだ。

だが、現世は王女という限りなく頂点に近い身分ゆえに、否応なしに貴族女性から僻みややっかみを受けてしまいがちだ。

 ……衣食住に困らず生活できる恵まれた立場の代償みたいなものよね。

私はこのように考えてすべて受け入れていたため、寵愛を誇られてマウンティングされても、ちっとも動じることはなかった。
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