人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「ふふっ。エドワード殿下とマティルデ様はとても仲睦まじいのね。素敵だわ。ぜひこれからも仲良くなさってね」

私はアッサリと寵愛を授かっているのがマティルデ様だと認め、それを後押しするような応援を述べる。

負け惜しみでもなんでもない、100%本心だ。

付け加えるなら「政務にも励むように尻を叩いてあげてね」と言いたかったが、さすがにエドワード殿下への不敬にもなりかねないので口にするのは慎んだ。

チラリと薬草摘みの様子を伺うと、もう調合に必要な分量は確保できているようだ。

 ……いつまでもここでマティルデ様と向き合っているのも変な注目を集めそうだわ。早く退散する方がいいわね。

私がショックを受けていると思い込んでいたマティルデ様は、思いの外私がアッサリした態度で悔しさを口にしなかったことが少々ご不満なようで扇子を持つ手が怒りで小刻みに震えていた。

「土遊びも十分だから私はそろそろ部屋に戻ってまた引き籠るわ。それじゃあマティルデ様、失礼するわね。ごきげんよう」

その場を辞す言葉を一言伝えると、侍女や護衛に声を掛け、私はその場をサッサと立ち去った。

王太子の婚約者と寵愛を一身に受ける側妃が対面している状況というのは、どうやら周囲の者に相当な緊張を与えていたらしい。

離れた瞬間、周りの空気がふっと軽くなるのを感じた。


◇◇◇

「さて、さっそく調合を開始するわよ!」

部屋に戻り、侍女に疲れたから休憩したい旨を伝えて一人きりになった私はゴソゴソと棚から調合道具を取り出した。

まずは採取したレウテックスから泥を取り除き、乾燥させていく。

本来は数日天日干しするらしいのだが、私は薬の師匠であるお婆さん直伝の方法でその時間を短縮させる。

次に道具を使って乾燥させたレウテックスを細かく砕いて粉末化していく。

ゴリゴリと何度も何度もすり潰して細かくしていくのだが、これが結構根気と力がいる作業なのだ。

サラサラとした粉末状になったところで、この前城下町で購入しておいたスパイスや蜂蜜などと混ぜ合わせる。

団子のように固まったら再び乾燥させ、最後にもう一度それを粉末化して完成だ。

 ……できた! 久しぶりに調合したけどなかなか良い感じなのではないかしら。これで明日の約束は果たせそうね。

ロイドからは数日使える程度の量の疲労回復薬を依頼されていたが、念のため今回結構な分量を作っておいた。

たぶん数ヶ月持つと思う。

というのも、先程のマティルデ様との話で、エドワード殿下が政務を放棄している現状が透けて見え、相当ロイドに皺寄せがいっているだろうと分かったからだ。

 ……その状況だと、藁にもすがる気持ちで、よく知らない町娘に頼んだとしても良く効く疲労回復薬を手に入れたくなるわよね。

自分も前世では働き詰めで栄養ドリンクが手放せなかったため、気持ちは痛いほど理解できた。

当初は助けてもらったお礼のつもりだったけど、今は少しでもロイドの力になれれば良いなという思いに私はなっていた。
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