人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
チリン、チリン、チリンーー。

数分ののち、個室の方からベルの音が耳に飛び込んできて、私は食事を終えたであろうロイドのもとへ再び向かった。

個室の扉は少し開けたままにして中へ入る。

これは貴族の常識みたいなもので、未婚の男女が部屋で2人きりになる場合は、このように中の様子が分かるように扉を開けておくのだ。

たぶん食事を終えたロイドとはこれから薬の受け渡しに関してこの場で少し話すことになるだろうから、こうした方が良いだろうと判断したのだった。


「お待たせいたしました。お食事はお楽しみ頂けましたでしょうか?」

「ああ、満足した。ここの食事はうまいな」

「ありがとうございます。店主が腕によりをかけております料理ですので、そう言って頂けて嬉しく思います」

「でもお前は普段ここで働いていないのだろう?」

「……っ」


最初は食後の和やかな会話だったのだが、最後のロイドの一言で空気がガラリと変わる。

ロイドは探るような目で私を見ていた。

「悪いが、お前のことは探らせてもらった。取引相手を知ろうとするのは当たり前のことだろう? だが、驚いたことに不思議なほど、シアという町娘について情報が得られなかった。……お前、普段はどこで何してるんだ?」

ロイドが私を調べ出したのはあの日偶然会った時以降だろうから、素性がバレていないのは不思議はなかった。

あの日以降はずっと王宮にいたのだから、シアに関する情報はないだろう。

たとえ今日この後も尾行されようとも問題ない。

王宮に入るところまではバレるかもしれないが、王宮内まで尾行して動きを調べるのは密偵などでは難しいはずだからだ。

一瞬口ごもりながら、素早く頭の中でこのように考えた私はともかく誤魔化す方向でいくことに決める。

「……そう言われましても。確かにフォルトゥナには不定期勤務ですが」

「それにお前は町娘のふりをしてるが、平民ではなく貴族だろう?」

「……なぜそう思われるのでしょうか?」

「私を公爵だと知っていたし、今日も当たり前のように個室の扉を開けているからな。平民なら気にしないことだろう?」

確かにそう言われればそうだ。

染みついた常識からくるいつも通りの行動というのは落とし穴だった。

 ……どうしようかしら。私が王女アリシアだということさえバレなければいいのだから、貴族だということは認めてしまう方がいいかもしれないわね。
< 64 / 163 >

この作品をシェア

pagetop