人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
あまりに何でも否定して隠すと、一番隠したい部分まで露呈しかねない。

それであれば何か一つは秘密にしていることを打ち明けるべきだろうと私は考えた。

「おっしゃる通りです。ここでは秘密にしているのですが、公爵様が推測された通り、私は貴族です」

「やはりな。それでどこの家の令嬢だ?」

「ご覧の通り、少々訳アリでこのように平民として振る舞っております。なので、そこは探らないで頂けないでしょうか? お約束通り、疲労回復薬はご用意しておりますので」

「だが……」

「素性が分からない者から薬を受け取ることに不安をお感じですか? そうですね、公爵様となれば色々気に掛けなければなりませんよね。では、目の前で私が毒味をいたしましょう」

私は強引に本来の用件である疲労回復薬の方に話を持って行き、渡す予定の小瓶を取り出すとそれをロイドの目の前に置いた。

そして個室の棚の上にあった予備のグラスと水を用意する。

「このように疲労回復薬は粉末状ですので、お水やお湯に溶かして飲用されてください。即効性があるので疲労を感じられている時に飲むと体が楽になるはずです」

ついでに薬の説明をしながら、私はロイドの目の前で疲労回復薬を水に溶かすと、そのまま自分で飲用して見せた。

自分で作ったものを自分で飲んで見せ、毒など入っておらず安全なものだと示したのだ。

瞬時に薬の効果が発揮され、臨時アルバイトで昼時の忙しい時間バタバタと働いた疲れが癒えていくのを感じた。

「これでも信用して頂けないでしょうか? 私の素性は分からなくても、本題である薬は問題ないと分かって頂けたと存じます」

「……確かにそうだな。どのみち、もともと私がお前の素性が分からないうえで頼んだのだから、これ以上詮索するのは無粋だろうな」

ロイドは冷静に状況を判断したようで、私に向けていた探るような目を引っ込めた。

そして自分の目の前に置かれた疲労回復薬の瓶に視線を移すと、今度は不思議そうに少し首を傾げる。

「……ずいぶん数が多いようだが?」

「ええ、多めにお作りしました。公爵様は政務でお身体を酷使しお疲れでしょうから、ぜひお使いください。あ、代金はいりません」

「金がいらないだと?」

「はい。この前危ないところを助けて頂きましたのでその御礼です。この分量で数ヶ月は持つと思いますが、もし追加で必要になられましたらその時は代金を頂ければと存じます」
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