人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「それにしても、ロイドが夜会に参加するのってかなり久しぶりなんじゃない? ダンスくらい踊ってあげれば?」

「1人と踊ったら特別だと勘違いされるだろう? それを避けて平等にするとなれば何人もと踊るはめになる。考えるだけで面倒だ……」

「モテるのも大変だね。実は僕も夜会は久々なんだけど、ミランダと踊れるのを楽しみにしてたんだよね。今日のためにミランダにドレスも贈ったんだ」

そう言われて遠くにいるミランダ嬢を何気なく見れば、アランの髪色と同じ赤色のドレスを身に纏っていた。

わざわざ自分の色を婚約者に身につけてもらっているのだろう。

「ドレスを贈るなんてマメだな。そういえばこの前も王宮で食べた菓子が美味かった時、わざわざどこの店のものか確認して、後日買ってプレゼントしたと言ってたな。アランは意外と女に尽くすタイプなんだな」

「別に尽くしてるつもりはないんだけどね。ただ、ミランダを喜ばせたいだけなんだ。喜んでくれたらこっちまで嬉しくなるしね」

頬を緩ませたアランは離れたところで他の貴族令嬢と話すミランダ嬢を見つめている。

貴族の大半は政略結婚であるが、この2人は相思相愛でお互いを想い合っているのが身近にいるとよく分かる。

 ……喜ばせたい、か。

アランが口にした言葉を反芻していると、なぜか脳裏に浮かんでくるのはアリシア様の姿だ。

私もアリシア様が自分の話を楽しんでくれたり、興味を持ってくれると嬉しく感じている。

この前、フォルトゥナに足を運んだのも、アリシア様に話すネタになるかもという動機だった。

 ……つまり、私はアリシア様を喜ばせたいのか? それではまるで、アランのように好きな女性に対して抱く思いのようではないか。

自分で導いた思考に自分で驚く。

いや、そんなはずはないと即座に否定した。

なにしろアリシア様は自分の主であるエドワード様の婚約者で、この国の将来の王太子妃だ。

私はあくまでエドワード様の側近として命じられて連絡係を務めているだけに過ぎない。

 ……確かに最初抱いていた印象と違って、聡明な方だし、王族とは思えないくらい無欲で自身の立場を弁えたしっかりした方だからな。好感を持ったというのはそうかもしれない。

そうだ、そうに違いないと私は結論づける。

なんとなくスッキリしないものをどこか感じながらもそれを突き詰めることはなく、私は見ないふりをした。
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