人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
大人しく詮索をやめて引き下がることにした私は、目の前の疲労回復薬に目を向ける。

約束通り、シアは準備をしてくれたのだが、なぜかかなり量が多いように感じる。

そのことを確認すると、私の体を気遣いあえて多く作ってくれたと言う。

しかも先日助けた御礼だから代金はいらないとまで言い出した。

予想外のことに内心驚いたのだが、彼女はさらに「浮いたお金は他のことに充ててください」と言ってきた。

この特異な女ならどんな金の使い方をするのだろうと(にわ)かに興味が湧き、私はわざと彼女に意見を尋ねる。

すると一瞬考えた素振りをしたのちに、彼女は自分の意見を述べ出した。

それがここ最近私の懸案事項でもあった城下町の治安悪化に関する対策だったことには再び驚かされた。

彼女が語る対策は今までこの国では実施されたことのないもので、聞けば聞くほど合理的で効果的であるように思える。

いつしか彼女の素性がどうとか気にしていたことも忘れ、まるでアランと話をするかのように会話をしていた。

 ……ここまで情勢をよく把握して、しかも解決策を考えることができる貴族令嬢がいるとは思わなかったな。普通じゃないのは確かだ。

王宮に戻り、さっそく手に入れた疲労回復薬を試しに飲用してみたのだが、その効果も驚くほどだった。

瞬時に疲れが癒やされるのを実感し、体が軽くなる。

こんなによく効く薬を調合できるのもやはり普通ではない。

エドワード様の要望で探し回った疲労回復薬だったが、予定よりずいぶん多く入手できたため、自分用としても確保できた。

執務が押し寄せ疲労が溜まりがちな今、正直この効き目はありがたい。

 ……私の体のことを気に掛けて多めに作ってくれるなんて、まるでアリシア様みたいな思考を持つ令嬢だな。

以前アリシア様も私の体調を気遣ってくれたことを思い出した。

それにしてもあのシアという令嬢に、アリシア様を重ねてしまうのは何度目だろうか。

髪色、声、そして思考の仕方が似ているのだ。

 ……今日だってアリシア様は部屋にいるというのに。重ねてしまうとはどうかしているな。

脳裏によぎったありえない自分の考えを即座に否定し、私は頭を切り替える。

そして翌日、入手した疲労回復薬を手に、エドワード様に対面するべく側妃の離宮に足を向けた。
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