人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「……いきなりどうされたのですか?」

私が内心疑問を抱えながらエドワード様に問いかけると、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりにエドワード様は語り出した。

「実は一昨日マティルデがあの王女と王宮本殿の庭で出くわしたらしくてな。その時大層嫌な思いをさせられたらしい。マティルデがそんな目に遭うなど、あの王女が調子に乗っているからに違いない! 私の寵愛が得られないからと嫉妬してマティルデを(おとし)めるなど許せることではない!」

鼻息荒く言い募るエドワード様とは反対に、私はどんどん自分の心が冷えていくのを感じた。

聞いているだけで馬鹿らしい話だと思ったのだ。

婚約者に(ないがし)ろにされる今の生活ですら恵まれていて幸せだと笑うアリシア様が、嫉妬して側妃に辛く当たるとは考えられない。

嫉妬どころか、アリシア様は国の安泰のために側妃に早くお子が産まれることまで願っていたのだ。

「……アリシア様が、マティルデ様を貶めたのですか? 具体的に何とおっしゃったのです?」

「そんなことは知らん。マティルデが不快な思いをしたというだけで罪深いではないか! 隣国の王女で婚約者ではあるが、実質ただの人質だというのに思い上がられてはこの先が思いやられる。だからロイド、もう前に命じたことはナシだ。ご機嫌取りの連絡係はしなくていい。大人しくしていろと警告して、その後は放置しておけ」

エドワード様の言葉は完全に側妃の言い分だけに基づいたものだった。

おそらく側妃は相当に話を盛っているか、わざとアリシア様の悪口を吹き込んだに違いない。

 ……アリシア様は側妃に対面するのが初めてだったはず。アリシア様の方こそ嫌な思いをさせられたんじゃないか? 大丈夫だろうか?

エドワード様の話を聞いて私が考えるのはアリシア様のことばかりだった。

たとえエドワード様から連絡係の任務を解かれて放置を命じられても、全くその気はなかった。

初めてエドワード様の命に従いたくないという気持ちが湧いてくる。

「……伝えておきます」

だから私は命令を肯定する言葉は避け、あくまで伝えておくという事だけを返答すると、そのまま挨拶をして足早にその場を立ち去った。

側妃の離宮を出た私がその足で向かう先はアリシア様のもとだ。

いつもより時間は早いが、今日はもともと予定していた訪問日だった。

お茶の時間まで待って訪問すべきかもしれないが、あの話を聞いた後ということもあり、とても悠長に構えている気分ではなかった。

嫌な思いをしてアリシア様が傷ついているかもしれないと思うと、一刻も早く会って大丈夫かこの目で確認したいと思ったのだ。
< 72 / 163 >

この作品をシェア

pagetop