人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「……その話を聞いてアリシア様はなにも思うところはなかったんですか?」

「それは嫉妬しなかったのか、とかそういう意味? それなら全くよ。仲睦まじくて素敵だと思うわ。これからも仲良くどうぞってお伝えしたくらいだもの」

アリシア様に取り繕っている様子はなく、本当に心からそう思っているのだろう。

それは発する雰囲気から察せられたし、唇にも緩やかに笑みが浮かんでいる。

「ただね、マティルデ様の側を離れないってことは政務も放棄しているってことでしょう? そこが心配になったわ。この国の未来は大丈夫かしら……って。それにロイドに負担がかかっていそうで心配になったのだけど大丈夫なの?」

続けてアリシア様が口にした心配事は、自分自身のことではなく、国と私のことだった。

 ……アリシア様にはエドワード様の状況を伏せていたのに、側妃の言葉から察するに至るとはやはり聡明な方だな。それに私のことまで。

アリシア様が傷ついたのではと心配して来たというのに、逆に心配されている。

アリシア様といい、あの訳アリ貴族のシアといい、ここ最近人から心配されてばかりだ。

女から口先だけで気遣う言葉を掛けられることはあるが、それは私に近づくためであったり、何か見返りを求めるためであったりと、欲深い女たちの計算高い言動の一つにすぎない。

それらとは明らかに異なり、純粋に心から発せられる言葉は実に心地よく嬉しく感じた。

 ……なぜアリシア様の言葉はこんなにいちいち私の感情を揺さぶるのだろうか。

いや、でもアリシア様だけではない。

あのシアという女から気遣われた時も他の女とは異なり、不快ではなかったのだ。

 ……女嫌いが軟化しているのかもしれないな。

今まで一律にどんな女も苦手で、近寄って来られるのも嫌だった自分に例外が2人も現れたのだ。

つまりはそういうことではないだろうか。

私はとりあえずアリシア様が傷ついたりしていなかったことに胸を撫で下ろすと同時に、自分の変化の理由を自分なりに導き出したのであった。
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