人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
そんな日々を送っていたある日のことだ。

ライラに紅茶を淹れてもらい、いつものように部屋に籠ってのんびり過ごしていたら、扉前にいる護衛から来客の旨が伝えられた。

この部屋に来るのは基本的にロイドだけだ。

だが今日はロイドが来る日ではないため不思議に思っていると、護衛のもとに用件を聞きに行っていたライラが戻って来た。

「どなたなの?」

「王太子様の側近のアラン様です。お急ぎのご用件があるそうですが、いかがされますか?」

「なにかしらね? お急ぎなのだから応接間にお通ししてちょうだい。私もベールを付けたらすぐにそちらに行くわ」

「分かりました」

ライラが入口に向かいアランを案内している間に、私は部屋では付けていないベールを装着して顔を隠す。

服装はこのままでも人に会える状態だったため、特に着替える必要がないのは幸いだった。

ベールだけ付け準備が完了すると、私は応接間に向かう。

ソファーにはアランが座っていて、ライラから提供された紅茶に口をつけているところだった。

「アリシア王女殿下、ご無沙汰いたしております。お変わりございませんか? 急な訪問申し訳ありません」

アランは私が現れるとその場に立ち上がり、臣下の礼をとる。

彼に会うのはこの国に来た最初の日の後、片手で数えるくらいだ。

ただ、ロイドとは親しい間柄らしく、よくロイドの話に名前が出てくるので、なんとなくもっと会っているような感覚があった。

「久しぶりね。私は相変わらず申し訳ないくらいのんびり過ごさせてもらっているわ。ところで急ぎの用件と聞いのだけど何かしら?」

「本来ロイドが連絡係として伺うべきでしたが、今は彼が不在ですので私が代わりにまいりました。実はアリシア王女殿下の祖国であるリズベルト王国から先程使者が到着いたしました。その使者がぜひアリシア王女殿下にお目にかかりたいとのことでして」

「リズベルト王国からの使者? でも私が自国の人間と自由に会うことは許されるの?」

どうやら使者は同盟に伴う資源の提供の件で、リズベルト王国の国王からの書簡を持って来たらしい。

国王の書簡を託されるくらいだから、そこそこの身分の者が来ているはずで、そんな人物と人質である私が自由に会えるとは思えない。

情報漏洩や陰謀の企みなどの可能性だってなくはないのだ。

もちろん私はそんなこと一切するつもりはないのだけど。
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